725
通路の曲がり角の奥から、剣で何かを断ち切る音と崩れ落ちる音が聞こえてきた。
程なくして、こちらに向かってテレサの声が届く。
「終わりました。どうぞこちらへ」
声は今までと変わらず、負傷も疲労も感じられない。
大丈夫みたいだな。
その声を合図に俺たちは通路の曲がり角を進むと、これまでの狭かった通路から一転、6畳間程の少し余裕のある小部屋に出た。
俺たちが今来た通路の向かい側に奥へと続く通路があるし、途中にあった似た場所と一緒だな。
部屋の高さもあるし、一息つきたいところなのだが……そこでは、戦闘を終えても剣を手にして警戒を緩めないテレサが立っている。
部屋の隅には数体分のアンデッドの骨が転がっているが、まだまだ油断は出来ないんだろう。
「ご苦労様。怪我は?」
「大丈夫です。そちらは問題ありませんでしたか?」
「通路に現れたのはレイスが2体ね。そろそろアンデッドは底をつきそうなのだけれど……休憩は必要かしら?」
「いえ、このまま行きましょう。皆さん、よろしいですね?」
テレサの言葉に俺たちが頷くと、彼女は奥の通路へと歩き始めた。
少し遅れて俺たちもその後に続く。
井戸を降りた先の通路に入ってから、そろそろ30分くらい経つ。
狭い通路をしばらく進むと先程の様なちょっとした小部屋があり、そこにはアンデッドが数体潜んでいる……らしい。
先導するテレサが全て倒しているから、俺たちはその様子を見ていないが、強さはそれ程でもないようだ。
皆口にしないが、何となく予想は出来ている。
もちろん俺もだ。
あのアンデッドは、ここに運び込まれた死体がなったんだろうが、この狭い通路にそんなにポンポン死体を運び込む事なんて簡単な事じゃない。
死体を背負って井戸を降りる事からして簡単じゃ無いしな。
だが……その死体が子供のものなら?
大人の死体よりはずっと運び込むのは簡単だろう。
すぐ上に沢山あったしな。
……気分の悪い話だ。
まぁ、いい。
ともかく、俺たちはこの地下空間を進んでいるが、ここは真っ直ぐ一直線という訳じゃない。
少し進んでは折れ曲がり、あのアンデッドが待機している小部屋があって、さらに進むとまた折れ曲がりその先は小部屋……その繰り返しだ。
侵入者側が数の利を活かしにくく、迎撃側がしっかりと迎え撃てる……そんな設計になっていると、途中セリアーナが教えてくれた。
通常の城や砦だと迎撃側が人員の補充をする為の抜け道なんかもあるそうで、攻略する際にはそこを狙ったりするそうだが、ここに限ってはそれの必要は無いだろう。
なんといってもアンデッドだ。
俺たちはゾンビもレイスも察知できるし不意打ちを全て防げているが、普通ならそうはいかない。
侵入者側も繰り返しの戦闘で命を落とす者が現れたら、そいつがアンデッドとして迎撃側の戦力に補充される。
通路を破壊しようにも、舗装されてそうそう簡単には破壊できないし、もたついていると壁を越えてレイスが襲って来るし……テレサが先を急ぐのはそこら辺が理由だろう。
しかし、普段使いするわけでも無いのに、ここまで手の込んだ物を造るなんて……奥には一体何があるんだ?
◇
「あそこが最奥のようですね」
あの後も何度か小部屋を通過したが、その都度同じ光景が繰り返されていた。
だが、今回は違った。
小部屋を出て、すぐ目の前の通路を曲がったのだが、その先には10メートルほどの通路が伸びていて、その奥に部屋が見えた。
中の何かが光を放っているようで、その光が通路まで漏れている。
それを見て、フィオーラが小さな声で呟いた。
「……まるで王都の研究所ね」
「あぁ……。1度案内してくれたね。なんか見憶えある雰囲気だと思ったけど、あそこだったか」
王都の研究所。
昔フィオーラに案内してもらったが、王都の結界を始め様々な魔道具の管理施設も兼ねていた。
床や壁そして天井に魔素を供給するラインが引かれていて、広いホール全体が薄らと光っていたんだ。
規模こそ違うが、この通路や小部屋、そしてあの奥の部屋はそれとよく似ている。
「そんな事もあったわね……。あそこはラギュオラの爪が設置されていたけれど、ここからでは見えないけれど、あの部屋にも何かこの空間を維持するようなものが設置されているのでしょうね」
フィオーラは俺の話を聞きながら懐かしそうな顔をしていたが、すぐに引き締めて、あの部屋の役割がどんなものかを話した。
「あそこにもアンデッドが5体いるわね。戦闘になるでしょうけれど、問題無いかしら?」
「ええ。あくまで魔素を集めている以上の気配は無いし、何か別の効果が発動するようなことは無いわ。セラ、貴女弓をここから撃てないかしら?」
「む? いいけど……大丈夫かな? 狙う的が見えないし多分壁に当たるだけだと思うけど……崩落とかしない?」
【ダンレムの糸】をぶっ放して、一気にシステムをショートでもさせるのかな?
だが、あれは物理的な破壊力も相当なものだし、こんな地下で使っていい物なのかな?
「上手くいけば壁や天井のラインを断てるわ。崩落に関しては……それを貸して頂戴」
そう言うと、フィオーラは俺の胸元にある【竜の肺】を指した。
なるほど……フィオーラはちゃんと考えがあるようだ。
俺は頷くと、彼女に【竜の肺】を渡した。
セラ・加護・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】【風の衣】
恩恵品・【浮き玉】+1【影の剣】+1【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】【琥珀の盾】【紫の羽】【赤の剣】【猿の腕】・8枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・0枚
エレナ・【】・【緑の牙】【琥珀の剣】・4枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・10枚




