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「じゃーねー」
「おう。赤鬼によろしくな!」
挨拶をし、冒険者達と別れる。
これでお使い完了だ。
リーゼルの依頼を終え数日、今一やる気が出ずダンジョンへは行っていなかった。
別に単にだらけていた訳では無い。
ワンミスで最悪死ぬわけだし、万全の状態になるのを待っていたのだ。
と、自分に言い訳をしてダラダラしていたのだが、アレクからお使いを頼まれた。
彼は順調に王都で有力冒険者達と顔を繋いでおり、ダンジョン探索も順調だ。
そんな彼だが、本来の役割はセリアーナの護衛だ。
今日は探索の報酬分配があったのだが、護衛の用が急遽入り、代わりに俺が報酬の受け取りに出向いたわけだ。
ちなみに赤鬼とはアレクの二つ名だ。
魔人の遺した棍棒と盾。
盾は王家に献上し、棍棒はルバン達が辞退したこともあり、ミュラー家の物となった。
あまり記憶に無いが倒したのは俺だが、あんなデカくて重たい物使えないから俺も断り、アレクが使っている。
【赤の盾】とオーガが使うような棍棒を振るう事から、赤鬼だ。
あまり表情を変えないし口数も少ないが、実はそのことを喜んでいるのを知っている。
「む?」
今度アレクをからかってやろうかと考えながら、屋敷に戻る道を【浮き玉】でふよふよと戻っている途中、貴族街の手前で視線では無いが、何かを感じた。
嫌な感じはしないが…ついに俺も気配を察することが出来るようになったんだろうか?
無視してもいいが…気になるし少し探ってみるか。
高度を上げ、何となく気になる方向へ進むと、商業地区の端にある大きな建物に辿り着いた。
ぐるりと塀を廻らせ、表と裏にあまりやる気は無さそうだが警備の人間がいる。
塀の上から覗いてみると、馬車が数台止まっている。
倉庫か何かだろうか?
勝手に入る訳にはいかないが…。
「ん?」
気にはなるが、どうしたものかと思案していると雨樋から垂れている黒いロープの様なものが見えた。
…アレな気がする。
辺りを見回すと、隣接する建物は壁側で窓は無し。
この倉庫らしき建物も同じく壁側で、門前の警備員の死角にある。
通行人もいない。
いける!
塀を一気に越え、そのまま壁を這うように上昇し屋根に登る。
そのまま外から見えないように低い体勢で、目標に近づく。
「何だこれ?」
雨樋に垂れ下がる黒いロープ。
1メートル程の長さだが、何なんだろうか?
これから妙な感じがするのだが…。
「ゎっ⁉」
セーフ…!
何とか声を飲み込んだ。
よく見るため、摘まみ上げようと手を伸ばしたら、急に動き出し一気に俺の影に潜り込んだ。
風に吹かれてとかでなく、明らかに意思を持っている。
生き物なんだろうが、こんな変なのは魔物だろうけど嫌な感じは全くしない。
本当に何なんだろうか?
体の下に広がる影を覗き込むが姿は見えない。
ただ、何故かはわからないがそこに居るのはわかる。
ペシペシ叩いてみるが、特に変わりは無い。
「うーむ……ひぇっ⁉」
何の感触も無かったが、屋根に付いた手に黒い影が這っている。
それに気づき、今度は声を上げてしまった。
◇
見つかりはしなかったものの、あのまま屋根に張り付いているわけにもいかなかったので、ギルドと迷ったが屋敷へ移動をした。
危険かどうかわからないので中には入らず裏庭に降り、上着の袖をまくり肌を露出する。
「蛇だよな…?」
蛇の様な姿の影が腕にしっかりと巻き付いているが、痛みは無い。
試しに触れてみるが、自分の肌だ。
腕も触れられた感触がある。
蛇は触られている感触はあるんだろうか、もぞもぞ動いている。
…蛇は嫌いでは無いけど好きでも無いんだが、嫌な気はしない。
不思議だ。
「セラ」
「⁉」
後ろからエレナが声をかけてきた。
裏庭の、それも端にいるのになぜ気づかれたんだろう?
「お嬢様が呼んでいるよ。おいで」
あー…そういやあの人レーダーみたいなスキル持っていた。
この蛇の事もバレてるな…。
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】・6枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・19枚
エレナ・【】・【緑の牙】・1枚
アレク・【】・【赤の盾】・2枚