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「セラ」
テーブルに並べられたブレスレットらしき物を、一つ手にしたセリアーナが、こちらにもう片方の手を伸ばしてきた。
俺にも手を出せって事かな?
「ほい」
手首に何もつけていない右手をその手に乗せると、セリアーナは自分の前へと引っ張った。
そして、手にした輪っかを手首に嵌めた。
やっぱりブレスレットだったか……。
【猿の腕】のカムフラージュ用に用意してくれたんだな。
【猿の腕】自体は、【影の剣】と違って隠していないが、バングルだって事は一応公言していないわけだし。
「おや?」
手首に嵌めたブレスレットは、落ちるほどではないが少しサイズが余っている。
指輪の時は自動で調節していたけれど……これは違うのかな?
「先日【猿の腕】を新たに入手したので、その偽装用に用意しました。ただ、今回調達した物は通常の品です。姫の指輪と同じような効果を持つブレスレットもあるのですが、それは少々無骨過ぎて似合いませんからね」
「ぬ……」
用意されたブレスレットはどれも華奢で女性的なデザインだ。
確かに俺の手首にゴツいのは似合わない気もするが……やっぱり機能を付与するとゴツくなるのかな?
「まあ……ダンジョンならともかく、森に出る際には外した方がいいでしょうね。お前は腕を振り回すでしょう? 木の枝や草に引っかけるかもしれないもの」
テレサと話をしている間にも、アレコレと着けては外してを繰り返していたセリアーナが、注意点を挙げてきた。
「そうですね。幸い外ではそこまで手首に視線が集まることは無いでしょうし、それでいいと思います」
「そうなの?」
俺はなんか色々着けてるなー……とか見ちゃうけど……。
ウチの女性陣は、基本的に装飾品はあまり身に着けないんだ。
今もだが、セリアーナは両手の人差し指に指輪を一つと、確かネックレスを一つ。
テレサは右手の人差し指に指輪を一つ。
もう帰宅しているが、エレナも確か指輪を一つだけしていた。
屋敷で過ごしている今日だけじゃなくて、外に出る時も大体いつもその程度だ。
フィオーラは、指輪やブレスレットも色々している事もあるが、普段の俺ほどじゃない。
まぁ……俺の場合は恩恵品も色々身に着けているから、またちょっと事情は違うが……。
「ええ。指輪型の魔道具は比較的入手しやすく、効果もシンプルな物が多いので、冒険者も利用する事がありますが、手首に着けるタイプの物となると、少々効果が限定される場合が多いんですよ。魔法の効果を拡大したり魔力の回復を速めたり……。効果はそこまで大きくありませんが、主に魔導士向けですね。フィオーラ殿が着けている物もそうですよ」
フィオーラのアレは魔道具だったのか……って事は、彼女がジャラジャラ身に着けているのは、お洒落のためじゃ無いんだな。
それはともかく、冒険者だと手首に何かを身に着ける事はほとんど無く、狩りをする時は気を付ける必要は無いってことは分かった。
だが、それなら俺が外をうろつく機会なんて狩り以外ほとんど無いわけだし、わざわざ用意しなくてもいい気もするが……その辺はどうなんだろう?
「コレってオレ着けてた方がいいの? 逆に目立ちそうな気もするけれど……」
【猿の腕】は確かに左手首に着けているが、シックなデザインだしそもそも俺は長袖を着ている事が多く、あまり目に付くことは無いと思うんだよな。
増やす事で、却って目立ってしまいそうな気もするけれど……。
「ええ。お前は指輪もしているでしょう?」
「うん。全部の指にしてるね」
ついでに黒のマニキュアも全部の爪にしている。
「それだと片手に一つだけしかしていない方が目立つでしょう?」
「ぬ……」
「それだけではありませんよ……」
セリアーナの言葉にちょっと納得しそうになってしまった。
それだけだと言葉が足りないと感じたのか、テレサが苦笑しながらさらに補足を入れてくる。
しかしこの2人……さっきからあれこれブレスレットを付け替えるのに忙しいな。
「指輪の時は、私が直接王都に依頼を出しましたが、今回は間に商業ギルドを挟みました。私が複数の装飾品を仕入れた事が広まる事でしょう」
「うん」
注文を出したからって、その受けた相手が直接出向くわけじゃ無い。
間に何人も挟むし、注文主が貴族なら事故防止のためにもちゃんと伝えるはずだ。
「屋敷の使用人も、むやみに屋敷の中の事を漏らしたりはしないでしょうが、それでも姫が何か身に着けているか? といった程度の事なら、家族に聞かれたら答えてしまうかもしれませんからね。それなら日頃から複数を身に着けておいた方がいいでしょう」
「……なるほど?」
【猿の腕】がバングルって事を隠すのはいいし、使用人経由で、俺が何か新しいものを身に着けているって事が漏れるのも別にいい。
でも、そこまでしなくてもってのが正直な感想だ。
まぁ、頂けるのなら有難く頂戴するが……。
「まあ、これでお前がまた何か増やしても、テレサが注文した物……とでも言っておけば、ある程度は凌げるでしょう」
「……おお!」
首を傾げる俺を見て、セリアーナがそう言った。
恩恵品はデカい物ならともかく、小物はアクセサリーの場合が多い。
こういった事で前例を作っていくと、色々誤魔化す事に役に立つ……のか?
いまひとつ腑に落ちないが……2人が良しとしてるんだし、これでいいのかな?
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】【風の衣】・【浮き玉】+1【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】【琥珀の盾】【紫の羽】【赤の剣】【猿の腕】・4枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・39枚
エレナ・【】・【緑の牙】【琥珀の剣】・4枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・9枚




