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「セラ、言葉遣いはいつも通りで構わん」
挨拶を終えたところでじーさんから言葉を崩す許可が出た。
一応相手を見るとそちらも頷いている。
よかったよかった。
「で?なんでまたオレを?何か用なの?」
変わりように驚いている。
すまんな育ちが悪くて。
「あ…ああ、うむ。実は君の加護の事を耳にしてね。是非とも力を貸してもらいたく、アリオス卿にお願いに来たのだ」
「ほーん」
加護…スキルだな。
で、俺のスキルは2個。
【祈り】はわざわざ俺に頼まなくても似たようなことを出来る人は他にいるだろうし、【ミラの祝福】の方かな。
しかしまた何で?
……ふむ。
「む?」
椅子の高さに合わせていた【浮き玉】の高度を上げ、ついでに右足も上げる。
そして、じーさんに【緋蜂の針】を見せつけるように、フリフリと振る。
「待て待て」
言わんとすることが伝わったのだろうか?じーさんが説明をしてきた。
フェルド家は、俺がスキルの検証で通う農場に出資している、ミュラー家と同じ派閥の貴族らしい。
そして、ここと同じく農場から収穫物が届けられるのだが、ある時その配達に来た人間が妙にこざっぱりしていることに受け取る使用人が気づいた。
そして、目の前に座っているこのおっさんこと、当主のブラムスに報告。
調べたら俺がヒットし、じーさんに連絡した…と。
「ふむふむ」
報告を聞き、改めておっさんの方を見る。
服の上からだけど引き締まっているように見える。
顔も肉がついたりせず中々精悍だ。
髪は…ちょっと後退しているかな?
アレか?チャレンジしろってことか?
いけそうな気はしていたが、逆にゴッソリ行ってしまうとシャレにならないから控えていたが…。
「仕方ないなぁ~」
手をワキワキしながら気合を入れる。
少し興味があったのは事実だ。
「まっ待てっ、違う。私では無い」
視線から俺がどこを狙っているのか気づいたようで、慌てて止めてきた。
それはそれとしてだ、違うってのは何だろう?
私では無いって事は、他の人?
「頼みたいのは妻なのだ」
「奥さん?」
「うむ」
まぁ、美容関連なら女性の方が食いつくか?でも本人は来ていないけど…。
どういうことだ?って顔をしている俺を見て、おっさんが説明を始める。
「実は、縁があって息子が結婚をするのだ。相手は伯爵家の長女で、領地は持っていないが長く王都で内務に携わってきた家だ」
「ライゼルクは決して大きい領地では無いが、北の国境近くにあり交易の起点にもなっている。代々外交も行って来ていたが、ここらで内に力を蓄えるのも悪くない。今回の結婚はいい機会だ」
じーさんから補足が入る。
北ってーとバルカとかそこら辺かな?
「普段は私は領地に詰めて父が王都にいるのだが、準備があるから半年ほど前から妻と王都に出て来ていた。この機会に各家との関係を向上させようと積極的に動いていたのだが…」
言い淀んでいる。
じーさんの方をちらりと見ると、また補足をしてくれた。
「学院の入学の時期と重なり、パーティーも多く開かれた。それに参加し続けておった。ブラムスは訓練場で体を動かしていたが、奥方はな…」
「ぁぁ…太ったのね」
息子さんの結婚式の前に…やっちゃったか。
「ああ。招待客の調整や式の準備にかまけて、ついつい後回しにしてしまっていた。式用のドレスが先日届いたのだが…」
「式はいつ?」
「10日後だ。妻は今日も乗馬や剣など体を動かしているが、恐らく間に合わない。仮に絞れても体を壊しかねないのだ。君の事は耳に入れないようにしているが、ぜひ引き受けて欲しい。この通りだ!」
机に手を突き頭を下げてくる。
10日後か~、そりゃ普通に痩せようとしたら厳しいよな。
「紹介したって事は、じーさんは受けていいと思う?」
「ああ。同じ派閥という事もあるが、私では軍人以外の繋がりはあまり無い。ご婦人方と関係を築くいい機会だと思うぞ?」
ふむ…。
「お嬢様がいいって言ったらだよ?」
問題は無いだろうけど念の為だ。
「ありがたい。感謝する」
貴族の奥様が相手か…大丈夫かな?




