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俺の手で遮られている為か、じーさんは気づいていないようだ。
どうしようかと思ったが、一応様子を伝えておこうか。
「少し肌が白くなってきてるね。あと傷痕が薄くなってきてるよ」
「⁉」
左手の変化を伝えると、驚いた顔をしたかと思ったら、その瞬間左手を自分の下へ引き寄せていた。
何か異常でもあったんだろうか?
「大丈夫?」
「うむ…だが…」
問いかけに応えながらも左手を凝視している。
いや、本当に何があったんだろう?
「この傷はわかるか?」
しばらくして左手をこちらに差し出しながら、傷痕を指す。
中指から親指にかけて、まっすぐ引かれたような痕だ。
刃物か何かだろうか?魔物では無さそうだけど…。
「うん。魔物じゃないよね?」
「うむ。まだ若い頃に同盟の一員としてルゼルの西部国境に派兵された時に、帝国と何度か戦ったのだが、その時に負った傷だ」
「ほーん」
よく覚えてんな。
「ここも見よ」
そう言い、今度は背中を向け後ろ襟を引き、首を見せてくる。
見ると、首から肩にかけて傷痕がある。
こちらは歪で、恐らく魔物によるものだ。
爪か何かかな?
「これはゼルキス東部を開拓していた際に、大型の魔物に急襲され、負った傷だ」
「ほうほう」
「そしてここは……」
ついつい調子よく合わせてしまったため、20分くらいだろうか?じーさんによるちょっとした東部開拓史の講演といった感じになってしまった。
このじーさん、あちこち傷多過ぎ。
ただ、言わんとすることは何となくわかった。
「わかるか?我々軍人にとって傷とは己の経歴なのだ。それが消えてしまうというのは……」
「消える前に気づけて良かったね!」
我ながら他人事のように言っていると思うが、こういうことを含めての検証だし、わざわざ立候補して来たんだから仕方が無い。
一応これでも申し訳ないなーとは思っているんだ。
「…うむ」
本人もわかっているようで、何とも言えない顔だ。
「軍人もだけど、冒険者も止めた方がよさそうだよね?」
思い返してみれば、孤児院にいた頃酒場の手伝いなんかやっていたのだが、そこにやって来ていた冒険者は大体この傷はどこで負っただの、何と戦った時のだだのが、娼館の話と並んで鉄板の話題だ。
ついでに冒険者どころか普通の商店のおっちゃん達もそんな感じだ。
そこから如何に武勇伝に繋げるかって感じだった。
正直分からなくも無い。
「そうだな。傷を負うこと自体はあまり褒められることでは無いが、そこから生還したという事は評価できるからな。それに、箔付けにもなる。止めておいた方が賢明だな」
うーむ。
治療とはちょっと違うんだよな。
別に傷が治っているわけではないはずだし。
肌は白く、というよりは元の色に近づいたって感じか。
自分に使おうにも、髪こそ変化あったが、傷なんか無いし、昔はともかく今は肌も白い。
外に出る事なんて、ギルドまでの往復程度で精々10分そこらだ。
庭で運動することもあるが、それも木陰で済ませてある。
日焼けをする機会が無い。
そう考えるとアレクも駄目だろうし、やはり屋敷の使用人で試すしかないんだろうか?
でも彼らも基本屋内での仕事だし、あまり日焼けとかしていない。
【祈り】の検証でさんざんやったから、肌の状態も割といいはずだ。
怪我をするような事も無いだろうから、傷痕なんかも無いだろうし…。
外に協力を求めようにも、商人は何処と繋がりがあるかわからない。
一店ずつ調べるのも効率が悪い。
ふむむ…。
「そうだ」
一緒に悩んでいると何か思いついたらしい。
「ミュラー家が出資している農場がある。そこはどうだ?」
「⁉」
農場!
日に当たる仕事だし、手や肌も荒れるだろう。
悪くない!
むしろ良い!
「良さそうだな。毎朝収穫物を届けてくるし、農場にはその時伝えておこう」
「うん。ありがとう!」
これは早起きしなくては!
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】・0枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・16枚
エレナ・【】・【緑の牙】・0枚
アレク・【】・【赤の盾】・1枚