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「セラでーす。入りますよー」
リーゼルの執務室のドアは開かれているが、それでも一応中に向かって声をかけてから中へと入った。
執務室の中では、リーゼルや文官たちが席について静かに書類を処理している。
うむ。
ここ数日の喧騒が嘘みたいだ。
オーギュストや騎士団の人間の数が少ないのは、本部や現場で処理をしているからかな?
「セラ君、どうかしたのかい?」
いつもと変わらないリーゼルがそう訊ねてきた。
セリアーナはどうにも気力が欠けていたが、彼は全然そんな事無いな。
それはそれとして、用事を済ますか。
「あ、うん。セリア様がダンジョンに行こうって言いだしたんで、許可を貰いに来ました」
「……ダンジョンへ行くのかい?」
少し驚いたような顔のリーゼル。
ダンジョンの閉鎖は領主命令だし、領主夫人とは言え無視するわけにはいかないもんな。
それに、一応セリアーナも狙われる身だったりもする。
普段から外出する際は護衛が付いているし、そもそも極力出歩かないようにしているくらいだ。
もっとも、冒険者ギルドと屋敷の地下から以外は入る事が出来ないダンジョンで、今は冒険者ギルド側の入口を閉鎖しているし、こと不審人物への警戒という点では、ダンジョンの安全は保障されている。
ってことで、セリアーナたちが探索に向けて着替え等の準備をしている間に、俺がリーゼルに許可を貰いに来たわけだ。
今日はガチの探索じゃないから、俺はこの恰好で行くしな……。
「セリア以外は誰が行くんだい?」
リーゼルは、ふむ……と小さく呟くと同行者は誰かと聞いてきた。
「オレとエレナとテレサ。フィオさんはちょっと忙しいみたいだから、誘ってないんだよね……」
同行者は身内の女性メンバーだ。
フィオーラは魔物の処理で手が塞がっているし、今回は誘っていない。
戦力と言う意味では、フィオーラはいてくれたら心強いことこの上ない存在ではあるが、まぁ……今回はあくまでセリアーナの気分転換が目的で、本格的な探索や魔物との戦闘が目的じゃ無いし行くのは浅瀬までで、この面子でも過剰なくらいだ。
その事を説明すると、リーゼルも納得したようで頷いた。
「わかったよ。それなら何も問題は無いね。少し待ってくれ」
そう言うと、リーゼルは机から何かの紙を取り出してサラサラサラと……。
そして、書き終えたのかこちらに差し出してきた。
「行くなら地下通路から頼むよ。それが許可証になるから、警備の兵に見せてくれ」
「はーい」
それを受け取ると、【祈り】を皆にかけて部屋を後にした。
◇
「もう準備は済んだ? 許可貰って来たよ」
ノックをしてから部屋に入り皆を見ると、準備は完了していた。
テレサとエレナはしっかりと鎧を身に着けているが、セリアーナは厚手の短いジャケットと随分軽装だ。
俺が言えたことじゃないか。
そして、武器はエレナは【緑の牙】を装備しているが、他の2人は通常の武器だ。
「テレサは【赤の剣】使う? 使うなら出してくるけど……」
鞘がまだ完成していない事から、【赤の剣】は未だに【隠れ家】に保管している。
使うんなら今のうちに出してくるのだが、テレサは首を振った。
「ありがとうございます。ですが、今日は私は盾を持ちますから、こちらの剣で十分です」
と、腰に差した剣に手を当ててそう言った。
「なるほど……」
今日はアレクがいないし、パーティーの盾役はテレサが務めることになるんだな。
まぁ、セリアーナもエレナも足を止めずに移動しながら戦うタイプだから、あんまり盾の出番は無さそうだけれど、仮にも領主夫人が一緒なわけだし、不測の事態に備えておく必要があるのか。
アレクもだけれど、色々な役割をこなせるのっていいよな。
マルチロール。
俺は俺で色々やっているけれど、ある意味雑用係って括りだもんな……。
「セラ」
テレサを見てふぬぬ……と唸っていると、セリアーナがこちらに手を出してきた。
「ほい」
セリアーナに許可証を渡すと、彼女はそれを一読して折りたたんだ。
「それじゃあ、行きましょう」
セリアーナを先頭に俺たちは部屋を出て、地下通路に向かう事にした。
何となくセリアーナの足取りが軽い気がする。
今回の事抜きにしても、ここのダンジョンにちょっと興味があったのかもしれないな。
◇
地下通路を通り抜けて、ダンジョンがあるホールへとやって来た。
いつもはここはごった返しになっているが、閉鎖している今は実に静かなものだ。
冒険者の代わりに、冒険者ギルドの職員たちがホールで休憩をとっている。
上の建物にも職員用の休憩スペースはあるが、今は表も裏も混雑しているし、ゆっくり休めないんだろう。
ここなら横にはなれないが、静かに休む事が可能だ。
皆机に体をダラリと預けて、休んでいる。
だが……。
「おっ……奥様!?」
突如現れたセリアーナに、1人が気付き、続けてだらけていた職員たちは慌てて立ち上がる。
まぁ、休憩中にいきなり現れたらね……。
セリアーナもそれがわかっているのか咎める事はせずに、許可証を見せながら口を開いた。
「ご苦労様。楽にして頂戴。これから少しの間私達はダンジョンに潜ることになったの。これは領主様の許可証よ」
「……なるほど、わかりました。皆様なら腕に不安はありませんが、どうかお気を付けて」
そして、許可証を見た職員がそう言った。
実に話が早い。
まぁ……エレナもテレサも一緒だしな……。
なにはともあれ、これでようやくダンジョンだ。
普段は特に足止めされること無く来ているが、今のやり取りもだが通路でもあれこれ聞かれたし……ちょっと手間取った。
それだけしっかりしているって証明でもあるが、偉い人も大変だな……。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】【風の衣】・【浮き玉】+1【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】【琥珀の盾】【紫の羽】【赤の剣】・15枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・33枚
エレナ・【】・【緑の牙】【琥珀の剣】・4枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・9枚




