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街を出てすぐの場所にある騎士団の訓練場。
訓練場と銘打っているが、そこは訓練場だけじゃなく隊舎や倉庫なども建っていて、今回はその隊舎を本陣代わりにしている。
扉が開け放たれていて人の出入りも激しいが、混乱した様子は無いな。
扉の前には伝令役らしき兵たちが待機している。
降りるならあそこかな?
「おつかれー」
「っ!? セラ副長か」
上から降ってきた俺に驚きの声を上げる。
毎度の事ではあるが、夜の登場は驚かしてしまうな……。
「オレだけ先に来たよ。団長は中かな? 入れてもらうね」
彼等に手を軽く上げて挨拶して本陣に入ると、中ではオーギュストたちが、資料を片手に机を囲みアレコレ伝令に向かって指示を飛ばしていた。
中の皆も忙しそうで、入ってきた俺に気付いていない。
忙しそうだし、挨拶はちょっと落ち着いてからにしようかと壁際に移動した。
あんまりのんびりする余裕は無いだろうが、まぁ……ジグハルトやテレサが来るまでまだ時間もあるしな。
「セラ副長か。……1人か?」
だが、折角気を使っていたのにオーギュストはすぐに俺に気付き、声をかけてきた。
「お疲れ様。オレだけ先に来たよ。ジグさんとテレサは隊員とか馬の用意をしてから来るって」
彼等は指揮官役も兼ねていて、部下を率いないといけない。
俺みたいに1人でフラフラするのとは役の重さが違う。
「わかった。来てくれ。まずは状況を説明しよう」
その言葉に、机を囲んでいる者が少し下がり、俺が入る場所を用意した。
忙しいだろうにわざわざ説明してくれるようだ。
そちらに行くと、オーギュストは「見てくれ」と地図を指した。
地図は一の森を含む魔境の浅瀬が記されていて、白と黒の駒がいくつも載っている。
黒い駒は森に点在しているし、魔物の群れだろう。
「ここにも音が聞こえているし、君なら上から見えたかもしれないが、徐々に森から出てくる魔物の数が増えてきている。これまではさほど強い魔物もおらず、浅い代わりに広く布陣する事で対処していたのだが……」
オーギュストは黒の駒を数個摘まむと森の上に置き、そして領都側に動かした。
動きは一直線で、道ってのを考えていない様だ。
まぁ……魔物だしな。
「森の奥の魔物も出て来たんだね」
伝令が言っていたもんな。
奥の強い魔物が出て来たって。
「そうだ。魔物側にはまだまだ駒が残っているにもかかわらず、早い段階で決めにかかってきた。このボスは中々頭がいいな」
「……なるほど」
戦力の逐次投入は駄目だっていうもんな。
数の利を活かしての、混戦に持ち込みたいんだろう。
確かにオーギュストの言う通り、お利口さんじゃないか。
「ジグハルト殿とテレサ殿には今回は隊の指揮を任せるが、セラ副長はいつも通り伝令役とポーション類の配送や加護での援護だな。もし途中で崩れそうな場所を見つけたら独自の判断で動いて貰って構わないが……出来れば南側を任せたい。どうだ?」
そこで一旦説明を区切るオーギュスト。
「うん。大丈夫」
俺に隊の指揮なんて出来ないもんな。
配達と加護、そして適当に戦闘参加。
いつも通りだ。
南側ってのも、北側は平地で馬を走らせ易いが、南は森やら川やら色々あるからな。
俺向きって事だろう。
そっちも文句無しだ。
返事を聞いたオーギュストは頷くと、再び口を開いた。
「冒険者は戦士団を中心に動いて貰っているが、そちらへの支援も頼む。ジグハルト殿が到着次第、彼にそちらを任せることになるから、もし何か聞かれたらそう答えてくれ」
「ほいほい」
騎士団や冒険者の受け持ち範囲やリーダー役についてなど、その後も10分程説明は続いた。
◇
差し当たっての仕事として、戦線の一番端を担う集団の下へ、ジグハルトたちの参戦を伝えに向かった。
ここは領都の南に1キロほどの場所と少々距離が離れていて、しかも間に森を挟んでいたりと、視界が通っていないから、異変に気付きにくい。
その代わり、ここの担当は領都でも評判の冒険者クランのメンバーだ。
腕利きばかりで、何よりメンバー数も多い。
大きく戦闘組と待機組に分かれていて、さらに戦闘組は複数のパーティーに分かれて戦っている。
同じクランだからか、それぞれ連携もしっかりとれていて、この場を任せるには十分な実力だ。
俺が到着した時はまだ戦闘中だったのだが、実に危なげなく魔物の群れを捌いていた。
「おつかれさまー」
戦闘が終了したのを見計らい、上から声をかけながら降りていく。
先程まで戦っていたメンバーは後ろに下がり、代わりにそれまで後ろに控えていたメンバーが、魔物の死体を一ヵ所に纏めるために引きずっている。
これを怠ると、戦闘中に躓いてエライ事になっちゃうんだよな。
「……よう。お前さんが来たって事は、ジグの旦那も出陣か?」
俺の声に顔を上げるが、リーダー格のおっさんが代表して答えた。
見た感じこの集団でも1、2を争うくらいの強さだが、武器を抜いていない。
まだまだ温存中って事かな?
「そうそう。伝令役ってことで、オレは顔見せだね。何か困った事は?」
「いや、ウチは問題ねぇな。人員もポーション類も余裕がある」
「ぉぅ……それは何より。オレは南側を中心に飛んでるから、何かあったら呼んでね? 笛は持ってるかな?」
「ああ。おい!」
おっさんは奥で周囲の警戒をしている1人に声をかけると、口元に手を当てて笛を吹くジェスチャーをした。
それを見た彼は、胸元から笛を出して掲げた。
うんうん……ちゃんと持ってるみたいだな。
「さすがさすが。じゃ、こっちは大丈夫そうだね」
「おう。旦那方によろしくな」
「ほーい」
まずはここはチェック完了だな。
俺は念のため彼等に【祈り】をかけると、一気に飛び立った。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】【風の衣】・【浮き玉】+1【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】【琥珀の盾】【紫の羽】【赤の剣】・15枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・33枚
エレナ・【】・【緑の牙】【琥珀の剣】・4枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・9枚




