582
この部屋は、基本的に廊下に立つ警備兵がドアを開ける様になっている。
たとえ、俺やセリアーナが相手でもそうだ。
なんと言っても、領主様の部屋だもんな。
部屋の前で入室相手を調べて、厳かにドアを開く。
警備兵の大事な仕事だ。
だが、そのドアがバンっと勢いよく開き、その装備から外の兵と一目でわかる男が勢いよく中に駆け込んできた。
部屋の中は一瞬静まり、皆の視線は新たに入って来た男に集中する。
「魔物の群れが一の森より姿を現しました!!」
皆の視線を浴びながらも、彼は部屋中に響くような大きな声でそう告げた。
「来たか……詳しく話せ」
「はっ! 失礼します」
オーギュストが部屋の中の騎士団員に何かを指示しながらそう言うと、彼もまたすぐに返事をしオーギュストの下に行き、説明を始めた。
少し緩んでいた部屋の空気がまた、一層緊迫したものになっている。
窓の外、次いで壁の時計に目をやるが、薄暗くはなっているもののまだ夜とは言えない。
「……魔物って夜行性じゃないの?」
魔物君のハッスルタイムはてっきり夜中だと思っていたのに……早くないか?
「勤勉なんだろう。ご苦労なこった」
「……なるほど」
勤勉と言っていいのかはともかく、暗くなってきた事で街の外に出る人間はいなくなるし、魔物から見ても街の雰囲気が変わる事はわかるだろう。
それを隙ととらえたのかもしれない。
結界があるとはいえ、背後から圧をかけられ続けたら、弱い魔物は従わざるを得ない。
うん……こりゃ戦闘になるな。
ジグハルトが軽い様子で言った言葉に頷いていると、セリアーナから言葉が飛んできた。
「お前と違って早起きなんじゃないの?」
「…………ぬぅ」
からかうようなその言葉に、ちょっと反論をしたくもなるが……それも確かにあるかもしれない。
思わず納得してしまい歯噛みしている俺を見て、セリアーナはご満悦の様子だ。
「セラ副長、ジグハルト」
そこへ、指示を出し終えたオーギュストが、お仕事モードでやって来た。
「私はこれから街の外の訓練場に向かい、あそこに本陣を構える。今はまだ魔物も偵察に過ぎないが、夜には本格的な襲撃が始まるだろう。2番隊にはそれから働いてもらう。2人は連絡が取れる場所にいてくれ」
「おう」
「はーい」
返事を聞きオーギュストは一つ頷くと、踵を返しリーゼルの下に向かい出発の挨拶をしている。
「……オレたちの出番あるのかな?」
起きたのは遅かったし、多少夜遅くなろうとも時間に関しては問題無いが……あまり緊張した状態が続くのって苦手なんだよな。
オーギュストが指揮を執るし、街に駐留している冒険者たちだっているんだ。
実はあっさり片付いたりしないかな?
「そりゃ、あるだろう。何年か前に倒したデカいクマを覚えているか? アレも直接攻め込んできたのは最後の最後だったろう? まずは配下に探らせて、弱らせてから襲うってのが常套手段だ」
「……こっちが弱らなかったら?」
「その時は、配下を使い捨てて逃げ出したって結果が残るな。逃げ延びても、ボスの座を追われるだろうよ。だが、それは俺たちからしたらあまり望ましいとは言えない。街への襲撃は防げはしても、また群れを形成されかねないからな。倒せる機会は逃したくない。そこは俺やオーギュストが上手くやるさ」
俺の疑問にジグハルトは自信たっぷりに答えた。
色々作戦を考えたりと、魔物も頭はいいが……結局はものを言うのは戦闘能力か。
んで、メンツを守る為にも力を見せないといけない。
自身が前に出て、相手の群れのボスを倒す……と。
この場合のボスってのは、オーギュストかジグハルトか……負ける姿が想像できないな。
そりゃー自信たっぷりにもなるか。
◇
オーギュストが出て行って、1時間程が経った。
つい先程、戦闘が開始したと連絡があったが、ここまで戦闘音は届かない。
距離があるし窓を閉めているからってのもあるだろうが、今のところは魔法を使うような派手な戦闘は起きていない様だ。
「セラ」
窓に張り付いている俺に向かって、セリアーナが声をかけてきた。
振り向くとテレサが立ち上がっている。
「なに?」
「今のうちにテレサと準備をしてきなさい」
「む」
流石に俺も寝間着で参戦する気は無いし、それは構わないのだが……もしかしたら思ったよりも早めに出番が来るのかな?
先程からチラホラセリアーナは自身の加護を使っていたもんな。
全体の指揮はリーゼルが執っているから口出しする気は無いようだが、俺たちよりも状況はわかっているんだろう。
「そうだね……想定よりも進行が早まっているし、まだ抑えられているうちに準備を済ませておいて欲しいな」
リーゼルもこちらを見てそう言う。
押されている様子は無いけれど、やはり展開が早いようだ。
色んなアレコレは【隠れ家】に放り込んでいるし、席を外せるうちにやっちまおう!
窓から離れて、部屋を出ようとしたのだが、ふとソファーに腰かけたままのジグハルトが目に入った。
彼はいつもと大して変わらない軽装だ。
そのままでいいのかな?
「俺はこれで十分だ」
「そか……」
俺の視線に気付いたジグハルトは、事も無げにそう言った。
まぁ……このおっさんが攻撃食らう様なことは無いか。
「わかったよ。んじゃ、行こうテレサ」
「はい。参りましょう」
俺はテレサを伴い、セリアーナの寝室に向かう事にした。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】【風の衣】・【浮き玉】+1【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】【琥珀の盾】【紫の羽】【赤の剣】・15枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・33枚
エレナ・【】・【緑の牙】【琥珀の剣】・4枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・9枚




