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外は木枯らし吹きすさぶ冬真っ盛りだが、相変わらずダンジョンは蒸し暑い。
そんなダンジョンで、額に汗を浮かべて今日も今日とてせっせと働く俺。
「たっ!」
俺の気合い込めて振り抜いた【影の剣】は、見事オーガの首を刎ね飛ばした。
残りの生き残りはヘビたちが仕留めて、戦闘終了だ。
ダンジョン上層は、蟻の巣の様に広間と通路で構成されている。
その上層奥、まだ冒険者が進出していない一帯の広間と通路を今日の狩場にしている。
中層でドカンドカンやるのも楽しいけれど……あの狩りは大味すぎるからな。
かと言って、下層のシビアな狩りも神経使うし……。
上層なら比較的楽に、かつ派手に狩りをする事が出来る。
それに、今はまだ上層に降りてすぐの場所までしか来ていないが、そのうちこの奥にも冒険者たちは進出してくるだろう。
そうなったら、【ダンレムの糸】を使った派手な狩りは難しくなる。
通路を抉るようにぶっ放すのって楽しいんだよな……。
冒険者にとって上層と中層は、俺が思っている以上に分厚い壁がある。
もちろん魔物が手強くなるっていうシンプルな理由もあるが、それ以上にそこまでの距離が問題らしい。
辿り着くだけなら上層で狩りを出来る冒険者パーティーだったら可能だが、到着する事が目的じゃないからな。
むしろそこからが本番だ。
だが、魔物との戦闘を繰り返し、重い荷物を背負って何時間もかけてようやく辿り着いた時には、流石にそこで戦うだけの余力があるかどうか……。
ならどうするかと言うと、所謂遠征という長期の探索を前提とした編成だったり、あるいは中層までの道中で戦闘をしなくて済む様に、道中の魔物を引き受けるサポート集団を集めたりするそうだ。
そのため、どうしても大掛かりなものになってしまう。
チラっと耳にした話では、上層に進出した者の中からさらにメンバーを選りすぐり、サポートメンバーも含めて中層にチャレンジする部隊を結成中らしい。
その成果次第にはなるが、最終的にこの上層までが日帰りで狩る場で、中層以降は中長期の探索用って分かれていくだろう。
その頃には恐らく俺がメインで狩りをする場は中層になる。
この上層での狩りは今のうちだけだ。
しっかり楽しんでおかないとな……。
余談だが、ジグハルトはかつて自分専属のサポート集団を組織しようと考えていた時期があるが、とん挫したらしい。
そこまで行けるような腕の冒険者は、やっぱり自分でも戦いたくなるそうだ。
「あ、終わった? んじゃ、拾うから警戒任せるよ」
首だけ刎ねていた魔物の処理をアカメたちに任せていたが、考え事をしている間に完了した様だ。
合図代わりに腕を引いてきた。
見ると通路に遺物がいくつか転がっている。
これはアカメたちは拾えないからな……俺の仕事だ。
手早く拾い集めて【隠れ家】に放り込んで、再び出発する。
「……おっと、ここで終わりか」
通路を抜けて次の間に出たが、今出てきた通路を含めても3箇所だけで、ここが東の端っこだ。
広間の魔物の数は、妖魔種魔獣種混成で30弱ってところか。
きりが良いし、ここを片付けたら帰還するかな。
◇
「けほっけほっ……あー……ほこりっぽい」
広間の魔物を片付けて遺物も回収した。
それじゃあ、帰還しようかと思ったが……全体的に埃っぽい。
まぁ、土砂を巻き上げる俺の狩りの方法が悪いんだろうな。
【隠れ家】で顔でも洗いたいが、そうするとシャワー浴びたくなっちゃうしな……。
冒険者の中には感覚が鋭い者が多いし、流石に石鹸の匂いさせてダンジョンから出てきたら妙に思われるだろう。
……仕方ない。
【隠れ家】でのシャワーを諦めると、両手を胸の前に何かを掬うような形で差し出した。
「ふぬっ!」
そして、1つ気合いを込めると、両手の中に水が溜まってきた。
「……よしよし」
最近身に付けた水を生み出す魔法だ。
魔力と魔素を混ぜ合わせて、飲料用や傷口を洗ったりするのに使うらしい。
熟練の魔導士なら、鍋一杯分くらいは簡単に出せるらしいが、俺にはこれが精一杯。
だが、顔を洗うだけならこれで十分。
パシャパシャと顔を洗い、さらにもう一度魔法を発動。
今度はうがいをしてサッパリだ。
「さてと……それじゃー、ここからは一気に駆け抜けますか。周囲を頼むね」
ここから先は、冒険者たちが狩りをしている可能性もある。
通路で迂闊にドカンとぶっ放すと、流石に広間まで巻き込むようなことは無いが、それでも音やら何やらで驚かしてしまうかもしれない。
攻撃を躱そうとした瞬間と重なってしまうと、ちょっとヤバいかもしれないし、魔物がいても戦闘は避けていくつもりだ。
その間俺は前を見ているし、周囲の警戒はアカメたちに任せる事にしている。
念のため、クルっとその場で一回転して周囲の確認をしたが、問題は無いな。
ってことで、出発だ!
◇
「ぬ!」
通路と広間を魔物を無視しながら突破し続けること複数回。
ここまでは冒険者と遭遇することは無かったが、この通路の先の広間では戦闘が行われている姿が壁越しにだが見えた。
このまま突っ込んでもいいが……。
ピーヒョロロ……。
首に提げた笛を取り出して思い切り吹くと、鳥の鳴き声のような音が辺りに響いた。
この笛は、俺が外で魔物の死体処理を巡回の兵に任せる際に使う物とは別で、主に猟師が仲間内で獣と間違って誤射しない様に吹く物らしいが、森や山で狩りをする冒険者にも広まっている。
その事を聞いて、ダンジョンには鳥の魔物は現れないし丁度いいと、俺も持つようにしたのだ。
ピーヒョロ笛を吹きながら広間に入ると、そこで戦う冒険者たちは一瞬だけ俺の方を見たが、狙い通り混乱なくすぐに戦闘に戻っていた。
良い感じじゃ無いか。
今後もこの方法を採用しよう。
さて、通用する事はわかったし……後は速度を上げて一気に帰還だ!
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】【風の衣】・【浮き玉】+1【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】【琥珀の盾】【紫の羽】・21枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・31枚
エレナ・【】・【緑の牙】【琥珀の剣】・4枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・9枚




