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諸々の準備を整えて、やる気になったはいいが……どうしよう。
他の魔物達もほとんど同じタイミングで倒したし、このままじゃ繰り返しになりそうだ。
オオザルは流石にすぐ湧いてきたりはしないだろうが……毒が効くのを待っている時間はちょっと無いな。
「ぬーん……ん?」
どーすっかなー……と、投石を回避しながら考えていると、視界の隅、入口ら辺に何やら強い魔力が見えた。
そちらに視線を向けると、今まで通路に身を隠していたジグハルトが広間に踏み込んでいる。
……そして魔力を溜めて魔法を撃つ体勢に入っている。
一応俺が救援要請を出すまではって取り決めだったんだけど、これは……アレか?
時間切れって事か?
目が合うと、後ろを向けとばかりに手を振っている。
やるんだな……!
まぁ、オオザルを倒せたとはいえ、時間がかかり過ぎちゃったし、仕方が無いか……。
と、一つ息を吐いて、後ろを向いた。
もちろんその際には、ヘビたちを引っ込めて【妖精の瞳】も解除する事を忘れていない。
魔物相手に背を向けるのは少々怖いが……ジグハルトなら一瞬だろう。
「ぬぉっ!?」
そんな事を考えていると、背を向けていてもわかる強烈な光が発せられた。
となると、お次は広間中に響く轟音が…………あれ?
なんもしないな……。
おかしーなー、と振り向こうかどうか迷っていると、下からジグハルトの声がした。
「セラ! 終わったぞ」
終わったらしい。
振り向き確認すると、俺が【ダンレムの糸】をぶっ放した時の様な砂煙など一切起きておらず、さらには死体も一つもなかった。
……あれー?
◇
下層の広間での戦闘を終えた後は、もう目的は果たしたし帰還する事にした。
急ぐ必要は無いし、行きとは違い小走り程度の速度でお喋りをしながらだ。
その際、真っ先に気になった事をジグハルトに訊ねる事にした。
下層の戦闘、あれどうやったの? と。
20体以上を一度にやったにもかかわらず、なんの痕跡も無かった。
死体が消えたのは核を潰したからだし、ジグハルトならたとえ複数だろうと一度に潰すのが可能なのは、俺も知っている。
実際見た事があるもんな。
だが、地面の破壊痕を始めなんの痕跡も無し……となると……ちょっとしたホラーだった。
「アレはな……直線じゃなくて、曲線で撃ち出したんだ。何度かお前が矢を放つのを見ていて考えていたんだ。今まで意識してこなかったが、障害物に威力を殺されちゃ勿体ないだろう? 弓を使う奴なら似たような事をするしな。魔法でだってできるさ」
「……へー」
事も無げに言い放っているが……結構とんでもない事じゃないか?
所謂曲射だが、アレは確か上に撃って重力で曲げている。
ただ、魔法は障害物や大気で減衰していくが、別に重力の影響を受けて地面に落ちたりはしない。
つまり、なにかしらの技術で弾道に介入して曲げているんだと思う。
しかも、ただ曲げるだけじゃなくて魔物を貫通させずに核だけのピンポイント射撃だ。
それも、1発だけじゃ無く何十発の同時発射。
どうなってんだ、このおっさん?
「大半はお前が動きを止めていただろう? 楽なもんだったな」
「……そーなんだー」
ちょっともう、わけわからないよ……。
「そんなことよりも」
「ん?」
全然そんな事じゃない気もするが、なんだろう?
「悪かったな……締めを俺がやっちまって。……魔物の再出現に間に合わない様なら、俺が代わりに倒しておけと言われてたんだ。お前1人でも十分やれただろうが……」
「あぁ……それこそ、そんなこと、だよ」
なるほど……事前に、俺がもたついている様なら代わりにやってしまえって、セリアーナにでも言われていたんだろう。
確かに俺1人でもやれただろうけれど、あのままじゃジリ貧だったしな。
毒を使った魔物は残しておきたくないし、どこかで離脱を選択していたと思う。
今回ので、「燃焼玉」の威力はわかったし、目的は果たせた。
今日の結果を基に、どうやって攻略するかを考えないといけないな。
下層に再度挑むのはそれからでもいいだろう。
それに……しっかり聖貨も2枚ゲットしたもんな。
成果はバッチリだ。
◇
ダンジョンから帰還すると、俺は屋敷に戻ってひとっ風呂浴びた。
その後向かった先は、セリアーナ達がいる執務室では無くて、ジグハルトやフィオーラがいる地下の研究室だ。
中には2人に加えて彼等の部下が数人何かの作業をしている。
そんな中、フィオーラはチェック表らしきものを片手にそれを聞いて満足気な笑みを浮かべている。
「お帰りなさい。ジグに聞いたわ。上手くいったようね」
「うんうん。オレでもちゃんと使えたよ」
効果自体は検証済みだが、いかんせん「燃焼玉」は半ば俺専用アイテム。
肝心の俺の使用感を聞いておかないと、彼女の中では完成とはならないんだろう。
「「燃焼玉」は、魔物の核を素材に使っているの。ここなら供給自体は問題無いけれど、加工に1週間ほどかかるから、使用したい時はある程度事前に言っておいて頂戴」
「はーい。結構面倒なんだね」
俺がそう言うと、フィオーラは壁の棚を指した。
棚にはサイフォンのような物がいくつも置かれていて、一滴一滴液体が落ちている。
「核や魔石の魔力を抽出しているの。放置するだけでいいけれど時間はかかるわね」
「……へー」
どれくらい必要なのかわからないが、確かにアレは時間がかかりそうだ。
とはいえ、核はダンジョンがあるし魔物を回収した際に一緒に調達できるだろう。
いざとなれば俺が依頼を出したっていいくらいだ。
制作に時間はかかるが、それさえ気を付けたらストックを切らす事も無さそうだし、これならいつでも下層に挑む事が出来そうだ。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】【風の衣】・【浮き玉】+1【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】【琥珀の盾】【紫の羽】・15枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・28枚
エレナ・【】・【緑の牙】【琥珀の剣】・4枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・8枚




