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「おおっ!? これはセラ副長。いらっしゃい」
俺達に気付いた店主が、挨拶をしてきた。
街での俺の呼ばれ方ってのは、大分いい加減だ。
子供達は隊長と呼んで来るし、普通の店のおっちゃんおばちゃんは、セラさんセラちゃん。
そこら辺は、領主側と関わりが無いから、わりかし自由だ。
だが、このおっさんは俺の事を副長と呼んでいる。
そういう場合は、商業ギルドや冒険者ギルドのお偉いさん、あるいは騎士団と関わりを持っている場合が多い。
このおっさんもその口かな?
「店主、こちらに並んでいるものは一体? 魔物のようだが……」
「ああ……。そいつはこの領地で倒されてきた魔物ですな。縁起物みたいなもんですよ……」
護衛の質問に答えるおっさん。
倒してきた魔物かー……確かに、俺が一の森で倒してきた妖魔種や魔獣もいる。
その代わり、ダンジョンで倒した魔物はまだいないな。
言ってみたらトロフィーみたいなものかな?
こいつらには勝っているぞーって。
どの魔物も、実物よりカッコ良く制作されているのは御愛嬌かな?
まぁ、折角よく出来ていても、不細工じゃー売れないか。
「……ん?」
ふんふん……と説明を聞きながら、俺も彫刻を手に取ったりして眺めていると、陳列棚の奥に布が被せられた何かが目についた。
2個あるが……、これも商品かな?
「ね、それは?」
「ん? ……ああ、それはですね……」
おっさんは苦笑しながら布を取った。
布から姿を見せたのは、クマと……なんだ? これ。
「ウチの親方とギルドの職人頭が彫った物なんですがね……」
彼は困ったように説明を始めた。
領内で倒されてきた魔物……言ってしまえば雑魚たちは、工房で働く職人が彫った物らしい。
オオカミにイノシシ、シカにゴブリン、オーク……俺はまだ遭遇した事無いがオーガもいた。
どれもよく出来ていると思う。
だが、この領内で討伐された魔物で2体の大物がいた。
1体は、かつて魔物の群れを率いて領都を襲撃したクマさん。
魔王種でも無いにもかかわらず、ジグハルトが本気を出して止めを刺した強敵だ。
そしてもう1体。
正真正銘の魔王種にして混合種。
領主自ら精鋭を率いて討伐に向かい、そして無事討伐を果たした、この領地の名前を冠する、巨獣リアーナ。
その大物2体は自分達が彫ると意気込んで、仕事そっちのけで制作したそうだ。
実際出来栄えは見事だが、それだけに値段もどうしても相応な物にする必要が出てしまい……。
この2日間、客寄せも兼ねて棚の一番目立つ場所に置いていたそうだ。
だが、狙いとは裏腹に、露店を訪れた客はそれを見て褒めこそするものの、値段を見ると店から離れて行った。
逆効果になるって事で、最終日の今日は引っ込める事にした。
すると、昨日まで来た客がアレが売れたのかと驚き、それならついでに自分も……と、比較的お手頃価格の雑魚……といったらいかんね。
通常の魔物の彫刻を買って行ったらしい。
良い売れ行きだったそうだ。
ちなみに一番人気はオオカミの彫刻だったらしい。
……カッコいいもんね。
ともかく、それだけだったら万々歳なんだが……。
「肝心のその2体が売れていないんですよ……」
「あらー……」
それは悩ましい。
商業ギルドは各工房も加盟していて、ジャンルごとのトップに職人頭がいる。
その彼と、この露店のおっさんが働く工房の親方……この領地屈指の木工職人の渾身の一作が売れ残りか……。
そりゃー、他の商品が売れても複雑だろうし、彼もその後の事を考えると、気が重いだろう。
「ちょっと見せてもらって良い?」
そう聞くと、彼は笑って答えた。
「あ、はい。どうぞどうぞ。出来栄えは間違いないんですよ」
まずはクマ。
木彫りのクマといえば、前世の北海道土産を彷彿させるが、アレは鮭を取るポーズだった。
一方こちらは、両腕を大きく広げた仁王立ちで、大口を開き正面を睨んでいる。
いまにも襲い掛かって来そうな迫力がある、こっちは職人頭が彫ったそうで、見事な作品だ。
で……巨獣リアーナ。
俺はサイモドキと呼んでいるが、実際それが一番正確に姿を表現していると思う。
額の両側に大きな角を持つ、長い尾のサイだった。
実はこいつの姿はほとんど知られていない。
別に隠すつもりはなかったんだが、とにかく巨体故にバラしたことや、腐敗を防ぐ為に特殊な布をかけていた。
領都に運び込まれてからは、すぐに作業に移ったし……生きて動いている姿はもちろん死体ですら、民間人の目に触れることはなかった。
せいぜい冒険者ギルドに所属する解体職人くらいじゃないかな……?
つまり、こいつを彫った親方は実物を見た事が無かったんだろう。
3本角で蛇の尾を持つ、大地を震わすほどの巨体……多分それくらいの情報で作ったんだろうね。
この彫刻は、羽の無いドラゴン……そんな姿だ。
どっちがカッコいいかと言われたら、文句無しにこっちだ。
そっかー……領民の間では、サイモドキはこんな姿になっているのか……。
「そう言えばセラ副長は討伐に参加されたんですっけ?」
「うん……ちらっとだけどね。この彫刻、よく出来てるよ」
実物に似ているかは別だが……まぁ、イメージは大事だね。
「んで、本当によく出来てるけど、いくらで出してたの?」
この出来を考えると、多少高くてもいいとは思うんだ。
客が引くほどの価格っていったいいくらなんだ?
「はあ……大銀貨5枚で……」
俺の問いに、おっさんは頭をかきながら申し訳なさそうな声で答えた。
「馬鹿でしょ……!」
祭りの露店で大銀貨5枚……。
そりゃ客も引くわ。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】【風の衣】・【浮き玉】+1【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】【琥珀の盾】【紫の羽】・7枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・28枚
エレナ・【】・【緑の牙】【琥珀の剣】・3枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・7枚




