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「ああ…まあ、大したことじゃねぇんだがな」
まあ聞け、と一拍置いて話し始めた。
「春の1月は、学院に通う為他国の貴族達がやって来るんだ。騎士や傭兵、冒険者なんかを護衛に連れてな。商人達もそれの後ろについて来るんだよ。数が多けりゃ盗賊なんかも手を出しづらいし、貴族御一行が側にいるとなりゃ尚更だ」
ほうほう。
そういやセリアーナも毎日どこそこの国の誰それとパーティーだとかで出かけている。
「で、だ。その護衛の傭兵や冒険者達は王都に着いた時点でお役御免だ。そして今度は王都のダンジョンで一稼ぎする…毎年の事だな」
天井を仰ぎ見ながら呟いている。
何だろうか?
うんざりしているのが伝わって来るけれど…。
「ウチや同盟加盟国はダンジョンを国内に多く持っているが他はそうでも無いんだ。だから西側の国はこの時期に貴族の子弟や商家の3男4男あたりを東側に一緒に連れて行き経験を積ませるんだ。こっちも紹介状がありゃ一応受け入れる」
この国でもそんな感じだね。
歳が足りてなくても、指導役を連れて行くことで。
何とも歯切れが悪いね?
「さっきのガキどもの格好見たか?」
受付で揉めてた子供達だろうか?
「うん。しっかり武装してたと思うけど…?」
俺なんて恩恵品こそ装備しているが、未だにメイド服だぞ?
武具の良し悪しはわからないが、よっぽどまともだと思う。
「何かあったの?」
「学院にいくつかの国の王族が入学しているんだよ。わざわざ公表するような事じゃないが、貴族だったり目ざとい商人は知っているからな。お近づきになろうって事で、歳の近い子供を送り込んで来ているんだ。
聖貨を得て、よしんば当たりを得て使うことが出来れば、加護や恩恵品を手にすることも夢じゃないからな。もしそうなったら一気に取り立ててもらえる可能性もある」
「ほうほう」
「貴族のガキはまだいいんだ。何だかんだで言うことを聞くからな。ただ平民のガキはな…なまじ訓練を積んだりして変に自信を持っちまってるから言うことを聞かねぇ」
「あぁ…ゼルキスでもそんなこと聞いたね」
「だろう?それでも例年なら2~3発ぶん殴って大人しくさせてから浅瀬の荷物運びからやらせてはいたんだ。1年かけて10人に1人位、1枚手に入れられるかどうかって割合だし大したことはないがな。ただ今年はな…、ガキ用の武具なんて基本的に無いんだよ。貴族が趣味で作るくらいだ」
「ふむ?」
確かに服にしたって既製服とか無いし、街で見る子供の服は手直ししたお下がりだった。
そう考えると子供専用ってのはこの世界あんまり無いのかもしれない。
「受付での話に戻るが、サイズはピッタリだったろう?ありゃ特注だ。何が何でも取り入ってやろうってのが伝わって来るぜ…」
「言う事聞かんって事なのね…」
「そう言うこった。外で勝手に死ぬのはいいがダンジョンで死なれるわけにゃいかねぇからな…。この調子だとまだまだ増えそうなんだよな~…」
ギルドは国営だ、いわば公務員。
いやはや大変そうだ…。
まぁ、少しくらいなら愚痴を聞いてあげよう!
◇
「……悪かったな時間取らせて」
「まぁ、昼御馳走になったし許してあげるよ……」
昼前に来てもう夕方だ。
夕焼けが目に染みる…。
わざわざ見送りに来てくれているが、長い話だった。
「依頼の品は順当に行けば2ヶ月かからないくらいで集まるはずだ。詳しい事はそれに書いてあるから渡しておいてくれ。落とすなよ?」
「ほいほい」
依頼の受領書を預かっているのだが、直接手に持っている。
…バッグ買おうかな。
「ああそれと」
帰るべく【浮き玉】の高度を少し上げたところで、待ったとばかりに話が続けられた。
「お前の事は冒険者はもちろん街の連中もだいぶ知っているが、他国の連中も知っているはずだ。大丈夫とは思うが、もし絡まれでもしたら出来れば手を出さずに逃げてくれ。お前んとこのお嬢様に言ってくれりゃ片付けてくれるはずだ」
これまた何とも言えないタイミングで、何とも言えない話を…。
「……わかった」
「おう。悪いな!」
こいつ…狙ってたな?
セラ・【隠れ家】【祈り】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】・8枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・13枚
エレナ・【】・【緑の牙】・0枚
アレク・【】・【赤の盾】・1枚