42
あーん。
「はい」
もぐもぐ。
「はいお茶」
ごくごく。
……。
「はい」
飲み込んだのがわかったのか、またフォークに刺したパイを差し出されるので大人しく口にする。
訓練所でセリアーナとバッタリ出くわしたことで【緋蜂の針】の試用はお開きとなった。
セリアーナはじーさんたちとどっかに行ったが、丁度昼時という事もあり俺は学院の食堂へ連れていかれた。
その際ついつい逃げようとしてしまったのがいけなかったのかもしれない。
エレナの膝の上に拘束されている。
王宮の敷地内だし、好き勝手動かれるわけにもいかないだろうし仕方ないか。
「あら?口に合わない?」
少し食べるペースが遅いのを気にしたのかエレナが聞いてくる。
「いや、美味しいよ」
美味しいんだよ?
流石お貴族様が通う学院だけあって、日本の味を知る俺でも美味しいと思う。
多分ベリー系の果物だと思うが、果実の酸味とクリームの甘味に生地の食感とバランスが取れて、とても美味。
紅茶ともよくあっている。
ただ、何というか俺にとってこういう甘い物はデザート、スウィーツなんだ。
食事に甘い物ってのは何か慣れない。
そういえば果物のソースとかも苦手だったな…。
それにしても…この食堂かなり広い。
周りを見回すと内装も凝っている。
今食べているものだって安くないはずだ。
俺たち以外は他に数人しか利用していないが、俺がいていいんだろうか?
「どうかした?」
「ここオレが使っていいの?」
「ああ…ここはね、生徒の関係者も利用できるの。この席はミュラー家とその関係者が利用できるわ」
「関係者もなんだ」
「ええ。王都に出てきた領地の人間や付き合いのある家との交流にも利用したりするの。特に来月からは外国の生徒たちも入って来るから、活発になるわ」
「へ~…」
なるほど…。
どうにも学校というと大学は別としても、部外者はお断りってイメージがあったが、この世界は違うのか。
ちょっとメニューは気になるけど近づくのはやめとくのが無難かな?と考えていると扉の方から話し声が近づいてきた。
「ん?」
「お嬢様達みたいね」
奥の方の席に座ってるのに聞こえてくるとかでけー声だな!
◇
セリアーナが隣に座り、向かい側にじーさんと訓練所で一緒だったおっさん達のうちの2人が座っている。
俺は変わらずエレナの膝の上。
おっさん達は結構有名な人らしく、遠巻きにこちらを見ている生徒達がいる。
この状況で話をするんだろうか?
「セラ、そちらが騎士団総長のユーゼフ・ラバン男爵で、こちらが近衛隊長のゼロス・オーガン準男爵よ。訓練所で顔は合わせているわね?」
「うん…じーさんと一緒にいた人達だね」
…組織図は知らないけど偉い人なんじゃなかろうか?
いや…爵位とかじゃなくて、肩書が。
あれこれやましい事のある身としてはあまりお近づきになりたくないんだけど…。
「王都にいる間に機会があればお前を紹介しようと思っていたのだけれど、おじい様が気を利かせてくれたのね。よかったわ」
うん…全然そんなこと思ってないってのはわかるよ。
じーさん達もそれを察してか目が泳いでいる。
「ミュラー家やゼルキス領と関わりが無いのに、おじい様個人の伝手でまだまだ効果が判明していない恩恵品の試用を見に来てくださったのよ?お礼を言っておきなさい」
言えって事か?
じーさん達を見るが目をそらしている…。
エレナを振り返ると頷いているし、いいんだよな?
「ありがとうございます」
セリアーナを見ると、にんまり、といった感じの笑みを浮かべている。
「いやいや、こちらこそ得難い場に立ち会えた。別の場で必ずや返礼を…」
「まあ素敵。何を頂けるのか楽しみにしておきますわ。セラ?」
なるほど、これ貸しにしたかったのか。
【緋蜂の針】の価値を考えると、なんか吹っ掛けそうだな。
じーさんもグルなんだろうか?
「セラ、おじい様には直接おねだりしていいから欲しい物を決めておきなさい」
ちげーのかよ…じーさん。
セラ・【隠れ家】【祈り】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】・0枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・9枚
エレナ・【】・【緑の牙】・0枚
アレク・【】・【赤の盾】・1枚