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「うるさいわね…」
領地の学校と違い、ここは貴族学院。
単純に勉強をするところでは無く、社交やマナーも学ぶ場だ。
走ったり大声を上げたりなどはもっての外。
担当教官に見つかったら叱責されるだろう。
にもかかわらず先程から何やら男子たちが騒がしい。
何となしに耳に入ってくる内容から、訓練所に誰かが来ているようだが…。
「誰が来ているのかしら?」
「訓練所でしょ?他国の騎士が来ているとは聞いていないし、中央軍の方かしらね?」
騒ぎこそしないものの女子たちも気にはなっているようだ。
「お嬢様」
エレナが早歩きで近寄ってきた。
よほどのことが無い限りは教室には入ってこないはずなのだが…その顔は何なんだろうか?
困惑している様子がわかるが…。
「御館様とセラが訓練所に来ています」
…ああ。
「そういえば昨日セラを連れて行くと言っていたわね…。それじゃあこの騒ぎはあの子かしら?」
貴族学院は王宮の敷地内にある。
そして騎士団の本部や訓練所もだ。
それぞれ隣り合っており、訓練所は学院内からでも見える。
セラが来ているという事は【緋蜂の針】を試しているのだろう。
生徒の家でも男爵家以上ともなれば恩恵品を持っている者はいるだろうが、そうそう気軽に見れるものでは無いし、まして子供が使っているとなればこの騒ぎもわからなくもない。
「まあいいわ。エレナ、行くわよ」
おじいさまが一緒とは言えあまり放っておくのも良くない。
「セリアーナさん、どちらへ?」
「訓練所へ。おじい様と私が面倒を見ている子が来ているようなので、顔を出そうかと」
友人の問いかけに応える。
それを聞いた彼女たちは、まあ、と顔を見合わせている。
気になっているようだし誘った方がいいだろうか?
「よろしければ皆さんも一緒にどうかしら?」
「是非。ご一緒させてください」
周りから自分も、自分もと集まりあっという間に10人ほどになった。
王都はダンジョンこそ危険度は高いが周辺は常に騎士団が見回りをしており魔物も野盗も出ない。
その際に死骸の処理もするからアンデッドも湧く事が無い。
ああ…だから先日あれほどの騒ぎになったのか…。
外もだが、もちろん街中の治安もいい。
国内の騎士が研修の一環として常に見回りをしているから、窃盗程度の軽犯罪はあっても殺人や人攫いといった重犯罪はめったに起こらない。
良くも悪くも刺激が無い街だ。
皆退屈していたのだろう。
祖父やその友人の気持ちが少し理解できた。
◇
訓練所に着くといくつか並ぶ的の中で1つだけ粉々に砕かれている物がある。
その前に立つ小さい人影。
まだ離れているがメイド服に赤い靴と一目でわかる。
セラだ。
「まあ、ユーゼフ総長様だわ」
「本当だ!近衛隊長のゼロス様もいるぞ!」
セラから少し離れた所に祖父を始め何人か集まっているが、皆が言ったように騎士団総長や近衛隊長の姿まである。
総長たちはともかく、中にはミュラー家とは違う派閥の者までいる。
友人同士の付き合いを咎めるつもりはないが…、恩恵品の試用に立ち会わせるのはいかがなものだろうか。
全く何をしているのだか。
「おじい様」
「む?おっおお…セリアーナか」
祖父も周りも少々気まずそうだ。
マナー違反を自覚しているのだろう。
「随分とお楽しみのようですね?」
「あ…ああ。うむ…懐かしい顔を見たのでついな…」
「それは大変結構ですこと」
その辺の話はまた後だ。
とりあえずセラを呼ぼう。
「セラ」
反応が無い。
崩れた的の前で俯いているが、怪我をした様子はない。
考え事だろうか?
「セラ…セラ!」
聞こえてないのだろうか?
「セラ」
「ちょっと待って」
近づき強く呼んでみるが誰に呼ばれているのか気づいていないようだ。
仕方ない。
「セラ」
耳を引っ張りながら呼ぶとようやく顔をこちらに向けた。
「…お嬢様じゃん。何すんの?」
全く…おじい様もだがこの子も困ったものだ。
セラ・【隠れ家】【祈り】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】・0枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・9枚
エレナ・【】・【緑の牙】・0枚
アレク・【】・【赤の盾】・1枚