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「ほっ!」
蹴るべし。
「はっ!」
蹴るべしっ!
「たっ!」
ひたすら蹴るべし!
「やあっ!」
ズバッ!と、頭の高さまで上がった足を振り切った。
折角若い体になったんだからと、日課にしている柔軟の成果が出ている。
蹴りを放つたびに、バチバチと右足に纏った【緋蜂の針】が赤くスパークしている。
ちょっとスーパーな気分だ。
ハイキックの軌跡に沿ってバチバチいくのもカッコイイ。
何か技名でもつけるべきだろうか?
「アンデッド実は俺だった事件」から早10日。
アレクに聞いたところ、「ラギュオラの牙」やギルドによって俺の事はある程度冒険者たちに周知されたようだ。
その為アンデッドは俺の事を見間違えた可能性が高いという事で落ち着いたが、それでも万が一本当にアンデッドがいた場合だと、放置したままでは被害が広がるので、今は浅瀬と念の為上層一帯を調査しているらしい。
その間紛らわしいから俺はダンジョン立ち入りを自粛するように言われている。
1月ほどで終了するようだが、それまで暇になってしまった。
王都ではダンジョン三昧の予定だったが、思わぬスケジュールの空白に何をしようかと考えていた時、セリアーナに、暇なら学院について来るか?と聞かれたが…断った。
学院内にある大図書館は少し興味があったが、貴族のガキンチョたちの群れに飛び込むのはどうも…。
そんなわけで、屋敷で【緋蜂の針】の効果を調べることにした。
結果、【緋蜂の針】は踏みつける以外にも蹴ることで発揮する効果もあるようだ。
蜂は攻撃手段に針で刺す他噛みつくこともある。
わざわざ赤と黒との色に、更にブーツとタイツに分かれていることから、きっと何かがあると思いあれこれ試していたが、正解だった。
まぁ、庭を歩きまわっている時に、毛虫が靴に付いていて思わず足を強く振ったら発動したってのが少々しまりが無いが、結果オーライだ。
ちなみに毛虫君は爆散した。
俺は毛虫や青虫もダメなんだ。
踏むこともだが、これも人に試すのは危ないから、屋敷の裏庭で一人で訓練をしている。
【赤の盾】を持ったアレクなら耐えられそうな気もするが。
コツは掴んだ。
蹴る時に動作だけでなく、蹴る、と強くイメージすることが大事だ。
そうすることで、足を振り始めると何やらスパークする。
これが何なのかも気になるが、毛虫の末路を考えると触りたくはない。
今はまだ一蹴り一蹴り集中しないと出来ないが、そのうち無意識に出来るようになりたいものだ。
「精が出るな」
ビシバシハイキックを決めていると、裏庭に出てきたじーさんが声をかけてきた。
いつもは執事も一緒だが今日は一人だ。
「今日は朝から出かけないんだ?」
ここ数日何やら忙しそうにずっと朝から出かけていたが、片付いたんだろうか?
「ああ。調整に少し時間を取ったが、騎士団の訓練所を使えるように手配した。セリアーナには昨日話してあるが、どうだ行ってみんか?今日から数日は昔部下だった男が隊長を務める隊が使っておるから、お前も自由に使えるぞ」
「ぬ?」
もしかしてここ最近出かけてたの、これの為なのかな?
確かに的も無しに宙を蹴るだけってのも手応えが無くて飽きて来ていたが…。
何が起こるかわからないから、庭に配慮して踏みつけるのもやらなかったし、折角色々手間かけてくれたみたいだし、行ってみるかな?
「わかった。行くよ」
「よし。馬車は表に用意してあるから、お前も準備して来い」
そう言うなり屋敷に早足で戻っていった。
もう馬車回してんのか。
俺の意見とか関係無しに、行くの決まってたんじゃないか?
…あれだね。
きっとじーさん、【緋蜂の針】の力を色々見てみたかったんだと思う。
…まぁ、いいか。
お言葉に甘えよう。
セラ・【隠れ家】【祈り】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】・0枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・9枚
エレナ・【】・【緑の牙】・0枚
アレク・【】・【赤の盾】・1枚