379
騎士団本部にあるアレクの執務室では、今日も冒険者ギルドや商業ギルドから派遣されてきた者達が、喧々囂々と相変わらず盛り上がっている。
新しく村になる東の拠点や、南北の村、そして、サイモドキとの戦闘で出来た空白地帯。
それらを上手く利用できないか? だのと、商魂たくましくて実に結構。
だが、外の報告があるでもないのにわざわざ俺がここにやって来たのは、別の用事があるからだ。
執務室を漂いながら、そんな彼等の様子を見ていると、部屋のドアを叩く音がした。
「失礼します」
アレクの入室の許可を受け部屋に入って来たのは、パリッと折り目の付いた制服を着こんだ、若い兵士だ。
屋内だから鎧を着ていないが、誰が見ても一目で騎士団の人間だとわかるだろう。
つまり、1番隊の隊員だ。
「来たか。書類は?」
「はっ! こちらになります。どうぞ、セラ副長」
「はいよ」
彼の前に降り、その書類を受け取る。
「えーと……どれどれ」
この書類の内容は既に聞かされている。
屋敷の警備体制の拡充についてだ。
ここリアーナ領の領主屋敷は、領都内南西にある広い高台の上に建てられていて、直接繋がる道は1本のみだ。
その道がある面を除けば、険しい崖になっている。
さらに、その高台自体も今ドンドン手が加えられていて、地下には複数の施設と通路が、そして外側では屋敷への道沿いにアレク達やオーギュストの屋敷が建造されている。
この高台全体が一種の城塞と言えるだろう。
とは言え、頑張ればその崖も登れないことは無く、進入が絶対不可能なわけでは無い。
もちろん、登ったら登ったで警備の兵がいるし、何よりセリアーナの加護があるから、侵入は現実的とは言えないが……それでも、守りをさらに固めるべきだという1番隊の要望で、この度屋敷の警備に犬が導入されることになった。
警護対象の筆頭でもあるセリアーナの加護を頼るってのが、そもそもおかしいのでは? って話だし、俺も賛成ではある。
ただ、それの導入にあたって、騎士団の幹部陣が連名でサインをするのだが、2番隊の副長の俺も一応幹部の一人で、それにサインをする必要があった。
屋敷では無くて、この騎士団本部でだ。
ちなみにその説明を受けたのは、リーゼルの執務室だ。
最終的にリーゼルに提出するんだし、その時サインをしていなかったのは俺だけだったから、そこに持って来てくりゃ良いじゃないか……と思ったが、それは俺とリーゼルの距離感だから言えるのであって、本来はこうするのが正しい。
サインするだけでいいが、一応書類に目を通し始めるが、書類を持って来た彼は、俺が読み終わるのをここで待つのか、ドアの脇で気を付けの姿勢で立ったままでいる。
10枚くらいあるし、やたら細かく書かれているから、ちょっと時間がかかりそうだな。
◇
「リックは部屋にいるのか?」
俺が書類を読んでいる間、気を使ったのかアレクが彼と話をしている。
「はっ。執務室で、春からの隊の編成について検討されています。来年から生活範囲が広がりますし、人の往来も増えますから……」
「……俺達も同じことをやっているんだから、こっちに来たらいいのにな」
「はっ……、1番隊は警備する側ですので、あまり関りを持ち過ぎても良くないからと……」
彼は周りで聞き耳を立てている者達を気にしてか、やや声を落として言った。
「まあ……あいつは真面目だからな」
アレクは笑っているが、俺は頭が固いだけだと思う!
「セ……ラ……っと。はい、書いたよ」
書類全体に目を通してから、最後にサインをして渡す。
そう言えば俺だけ家名が無かったな……大丈夫だろうか?
「……はい、これで問題ありません。ありがとうございます」
問題は無かったようだ。
受け取った彼は、俺に軽く頭を下げて部屋を出て行った。
「……最後まで態度崩さなかったね。1番隊でももう少し砕けたのがいたはずだけど」
街の警備をしているおっさんたちは、勤務中でももう少しフランクに接してくるんだが……。
「そいつらは領地で採用した連中だろうな。若いのは他所から連れてきたのが多いそうだ。だからこそ領内で舐められないように厳しく指導しているんだ。騎士団らしくあれってな……」
「大変だねぇ……」
俺がそう呟くと、冒険者ギルドと商業ギルドの者達が乗っかってきて、アレコレ言っている。
「真面目なのはいいが……街のモンからはちょいととっつきにくいな」
「そうか?ウチの者からは評判がいいぞ? 外で兵士を見ても警戒しなくていいってな」
同じ領都の組織同士でもこれだけ評価が変わってしまうのか。
この街じゃ、ああいうお堅い者達はある意味異物だし、仕方が無いのかな?
しかし、この分じゃリックはさらに頑なになりそうだな……。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・9枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・4枚