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雨季に入り例年通り、外は大雨が降り続いている。
俺やアレクは、騎士団本部に向かうのに、屋敷の地下訓練所から繋がっている通路を利用するようになった。
一応主要施設には外も屋根付きの通路で繋がっているが、あくまで屋根だけで壁は無く、気温は低いままだ。
その温いルートは幹部の特権だな。
普段から薄着の俺にはありがたい。
「お? やっているな……」
屋敷から地下に降りて訓練所に入ると、前を歩くアレクが何かを見つけたようで、そう呟いた。
「んー? あ、ほんとだね」
何かなー? と、肩越しに覗いてみると、乳母さんの夫たちが木槍を振っている姿が見えた。
指導役の騎士や、今はもう見習いの肩書きが取れた女性兵士達と一緒に、訓練を行っている。
思えば彼女達も随分動きが良くなった。
未だ女性客が宿泊したことは無いが、この分なら充分務めを果たせるだろう。
さて、先日雇った乳母さんたちは、当たり前だが乳母さんとして働くことになっている。
子供たちが乳離れした後は侍女として、リセリア家に仕える予定だ。
そして、その夫たちは屋敷の警備兵として働くことが決まった。
所属は騎士団の1番隊になるが、当分の間は屋敷の警備が役割だ。
ただし、騎士団所属とは言え生活には大分制限がつくことになる。
本人ではなく妻が、だが、領主夫人の大分プライベートな部分にまで入る事が出来る以上、外部との接触は出来ない様にするそうだ。
そのうち解除されるそうだが、それがいつになるかはわからない。
手紙くらいは出せるが、しっかり検閲されるし、当分は窮屈な生活を送ることになる。
新しく越してきたばかりなのに、大変だ……。
入口で彼等を眺めていると、俺達に気付いたのか手を止めて直立している。
「ああ、手を止めなくていい。そのまま続けろ。……セラ行くぞ」
「ほい」
訓練の邪魔をしちゃいかんと、アレクと共にいそいそと通り抜け、奥の通路に入ってすぐに、後ろから再び木槍同士を打ち付ける音が聞こえ始めてきた。
「ねーアレク、彼等はどんな感じ?」
暗いわけでは無いが、相変わらず辛気臭い通路を無言で進むのも何なので、アレクに彼等の評価を聞いてみた。
「……新しく入って来た3人か?」
「そうそう」
「そうだな……ゼルキス出身だけあって、それなりに鍛えられてはいるな。身辺調査でも問題は無いからこその採用だろうし、人間性も悪くは無いだろう」
そりゃそうだ。
「ほうほう」
「だが、騎士団所属にはなるが……ここではあの程度の腕じゃあ、すぐ死ぬだろうな。春までにもう少し鍛えたとしても、1年2年もしたら裏方に回されるはずだ。ただ、年寄ならともかく、若い裏方の専任は騎士団内じゃ侮られる事が多い。ただでさえ、カミさんのおこぼれと、受け止められかねないしな」
「へー……」
あまり芳しくない様子。
騎士団とは言え、ウチは荒くれ者が多いし、乳母の夫って受け止められ方をしてしまうのか……まぁ、実際そうだしな。
裏方も大事なんだけどね?
「あいつら自身がそれを受け入れられるかどうかだな……。まあ、1番隊の所属だし、そのへんの事はリックに任せるさ」
「あらま……」
確かに所属も違うし、結局そこらへんは本人次第だもんな。
しかし、アレクも結構ドライだな。
一応自分の子と関りを持つ事になるのに……。
「子供達がある程度大きくなると、その後は奥様の侍女として働くだろう? そうなるとカミさんたちの方が立場はずっと上になる。今の段階でどうにかできないんなら、どの道駄目になるさ」
「なるほど……」
男尊女卑とまではいかないが、男女平等とは程遠い世界だ。
そんな中で、奥さんの方がずっと立場が上になるとなれば、世間体というか……中々肩身が狭そうだ。
セリアーナとエレナはリアーナ領の女性の最上位で、その侍女ともなれば、やっぱり魅力的なんだろう。
家庭不和の原因になりそうな気もするが、女性が活躍できる、少ない職種だしな……。
「子供達の教育の本命は、旦那様が王都から呼び寄せる家庭教師だ。変に気負い過ぎずにやってくれりゃ良いんだがな……」
全く気にかけていないわけじゃ無いんだろうけれど、アレクは2番隊だしな……荒くれ者どもの巣窟だ。
どうしようもないか。
耳をすませば、指導役の大きな声が聞こえてくる。
どうなるかはわからないが、頑張って欲しいね……。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・9枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・4枚