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「ぬぉぉぉ…………よいしょーっ!」
掛け声をあげ、渾身の力で引き上げた遺骸の入った袋が、浴槽に落下する。
その際、ドサっではなくズドンと随分重たい音がした。
あの後一旦外に出て、胃や腸といった消化器系だけは、外で抜いてきた。
幸い、そこら辺は普通の魔物と一緒で、謎の器官が追加されているようなことは無く、念のため、腹部を切り開いた後は皮の手袋を装着していたが、サイモドキの血液の様に何かを溶かすという事も無かった。
服にかからないように気を付けたって事もあるが、やっぱ混合種ってのは特殊なのかな?
そして、その後再び【隠れ家】に入り、浴室まで引っ張って、何とかかんとか浴槽に入れる事に成功した。
中身が抜けているから多少は軽くなっていたが、それでも相当な重さで、尻尾だけでは持ち上げる事が出来ずに、俺も浴槽の中に入って渾身の力で引きずり込んだ。
「んで、後は水を……っと。シートは水が溜まってからでいいかな?」
袋のロープをほどいて一枚のシートに戻してから少し引っ張ってみるが、重くて動かないし、水が溜まれば浮力が働くだろう。
蛇口をひねると、水が出てくる。
指先を少しつけてみるが、良く冷えている……外は夏だから少し温かったりするかとも思ったが、相変わらず不思議だ。
「次は頭か……氷の前に頭を入れた方がいいかな?」
浴槽に水が貯まっていくのを確認してから、今度は頭部に取り掛かる。
こちらは胴体と違って、軽いし簡単だ。
大きめの桶に頭部を入れて、後は冷凍庫に大量にストックしている氷を突っ込む。
それだけだ。
氷は大きめのボウルに入れて、三往復でいっぱいになった。
冷凍庫は普段使うようなことは無いからな……暇を見て氷を製氷機から移していたが、こんな使い方をするとは思いもしなかったな。
「よし……これは水は入れなくていいかな?」
冷気が漏れないように桶に蓋代わりに板を置き、こちらは完了だ。
氷はまだまだ残っているし、浴槽の水が貯まるまでついでにこっちにも入れておこう。
桶と違って、流石に浴槽では十分な量とは言えないが、無いよりはいいだろう。
さてと……とりあえず処理はこんなもんでいいか。
後は水が貯まるのを待つだけだな。
一応換気扇も回しておくか。
◇
孤児院にいた頃に、街で魔物の解体処理の手伝いに駆り出されたことがある。
もっとも、手伝いと言っても水を汲んだり掃除をしたりと雑用だけだったが……それでも、何となく程度だがどういった事をやっていたのか覚えている。
吊るして血を抜いて、内臓を取って、それから解体をしていた。
前世のテレビで猟師のドキュメンタリー番組を見た事がある。
あまり真剣に見ていたわけでは無いので、内容はうろ覚え程度でしかないが、獲物を捕った時に同じく血や内臓を抜いていた。
そして、川に沈めて肉を冷やしていた。
そっちは食用で、味を良くするための処理だったが、理屈は同じはずだ。
血や内容物が内部に残っていると、傷みやすくなるんだろう。
熱もそうだ。
だから、それらを抜いて、肉を冷やしていた。
魔王種の遺骸は食用にするわけじゃ無い。
毛皮以外の素材をどういう風に利用しているのか知らないが、それでも傷んでいる物よりはいいはずだ。
それに何より、二日程度とは言え、魔物の死体を常温で室内に放置するのは、ちょっとチャレンジ過ぎる。
正直、【隠れ家】内に魔物の死体を持ち込むこと自体気が進まないんだ。
これが魔王種の遺骸じゃ無けりゃー、たとえどこぞの村の側でアンデッドが発生するような事態になろうとも、放置していたかもしれないな。
「ぬ」
【浮き玉】で移動しながら、あの村の人間の運の良さや【隠れ家】内の遺骸の事について考えを巡らせていると、見覚えのある街が見えてきた。
ゼルキスの領都だ。
って事は、リアーナの領都まであと半日そこらだが……それだと到着は昼頃になってしまう。
遺骸の運搬方法や移動速度など、ちょっと小細工をしたい事もあるし、明るいうちの帰還は避けたい。
何とか明るくなる前に領都近くまで行って、そこで暗くなるのを待つかな。
しかし、意外と【隠れ家】内に魔物の死体が一緒にあっても、寝れるもんだな。
風呂はシャワーしか使えないが、何だかんだ気にしなくなってしまった。
これに慣れちゃうのはよくないかもしれないな。
便利すぎるから、油断すると【隠れ家】内が魔物の死体で埋まってしまいかねない。
気を付けよう。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・6枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・2枚




