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東門の前に到着し、馬車が動きを止めた。
外に出ると、ようやく東の空が白んできた頃で、門はまだ開いていない。
だが、例によってお貴族様パワーで通過させてもらう。
馬車から降りると、じーさんも一緒に降りてきた。
昨晩帰りは遅かったのに、馬車を出すだけじゃなくてわざわざここまで見送りに来てくれた。
ただ……まだ酒は抜けきっていない様で、少し酒の臭いがしたので、手間賃代わりという訳じゃないが、【祈り】と【ミラの祝福】を腹部にかけておいた。
「では、気を付けて行け」
「はいはい。オリアナさんや屋敷の皆によろしく伝えといて」
「うむ」
じーさんと短い挨拶を交わし、王都の東門の兵士用の通用口に向かう。
「お疲れ様でーす」
「なに、これも仕事だよ」
外に出て待機していた兵士に声をかけ、通らせてもらう。
正直、権力という意味では貴族ってものに魅力を感じていなかったが、身分証明という点ではなんというか……便利だよな。
リアーナ領内だけなら今のままで十分だし、ゼルキス領は自由移動の許可を得ているから問題無いが、今回の様に複数の領地や王都をとなると、やれないこともないんだろうが、一々許可を個別に取るのでは手間がかかり過ぎる。
帰ったらセリアーナに話を聞いてみようかな。
「……ふぅ」
街壁の外に出ると、空気が変わるのがわかる。
草原や森があるからか、【浮き玉】で空を飛んでいても、風に草の匂いが混ざっているのを感じる。
気温はまだ明け方にもかかわらず、軽く汗ばむくらい高いが、風が爽やかで気持ちいい。
空調の効いた部屋も悪くないが、たまにはこういうのも悪くないと思う。
俺は夏は部屋に引きこもっている事が多く、意外と気付かないもんだな。
背後を振り向くと、もう門前の兵士の姿は小さくなっている。
まだ薄暗いし、これだけ離れたら速度を出してもわからないかな?
「よっし!」
大きく深呼吸をして気合を入れると、一気に【浮き玉】の速度を上げた。
ここからまたリアーナまでの長距離移動だ。
日が昇り外を行く人が増える前に、今日の分の距離を稼いでおこう。
◇
「ふぃー……おわっとっ!?」
風呂から上がり、リビングのソファーに倒れ込むと、頭に巻き付けたタオルが外れ、まとめていた髪が広がった。
短い頃ならともかく、今はもう腰辺りまである。
行きではうっかり、髪が濡れたまま眠ってしまい、大変だった。
モニターのスイッチを入れて、外の様子を見ながら再び頭にタオルを巻く。
街道から外れた草原で【隠れ家】を発動しているが、外には人も魔物も姿は無い。
ドライヤーの制作は小型化に難があり断念したが、送風機くらいならいける気がするんだよな……いや、今年はもう一人で遠出はしないかもしれないし、使う機会は無いだろう。
来年には俺の魔法の腕が上がって、ドライヤー魔法を自ら扱えるようになるかも……それは無いな。
「君達はどう思うね?」
甚平の襟元から姿を見せている三匹のヘビ達に問いかけるが……それを無視して、三匹で何やら見つめあっている。
契約をした昨日から、時折こんな風にしていたが、シロジタの時は見なかった光景だ。
二匹だったからかな?
別に揉めている感じはしないが……何をしているんだろう?
「ふっ」
【妖精の瞳】を発動し、新しく加わった潜り蛇のミツメを見る。
ミツメ……ルーイック家に長く仕えた騎士が若い頃に契約したそうで、恐らくアカメやシロジタよりも年齢は上だ。
ただし、その騎士はダンジョンには潜らず、屋外での活動に重点を置いていたようで、能力という点ではアカメよりもずっと低く、シロジタと同程度だ。
やはり、身体能力の成長にはダンジョンの魔物の核が必要らしい。
名前の由来はそのままズバリ、額にある三つ目の目から。
このヘビさん、目が3個あるんだよな……。
魔物もたまに他とは姿が違うのもいるが、ミツメもそうなのかな?
朝の移動の時に何度か試しに発動してみたが、幸か不幸か魔物の姿を見つける事が出来ずに、未だに三匹目が加わった事での見え方の変化はわかっていない。
まぁ、また夜になったら移動を開始するし、その時には魔物を見つける事が出来るだろうからわかるはずだ。
「んー……よし。乾いたな」
タオルを外し、髪の毛を触ると水気が取れたのがわかる。
少し早いが、夜に備えて床に就こう。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・5枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・2枚




