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サイモドキが咆哮しながら右の前足を振り抜いた。
アレクがそれを受け流すが、追撃で戻した足を上から振り下ろした。
だが、それは受けずに転がって回避し、側面の二人が、魔法を胴体ではなく足元に撃つことで、追撃を阻んでいる。
サイモドキは尻尾が無くなった分前足での攻撃を多用してきた。
今やったように横薙ぎからの叩きつけや左右での連撃等、意外とバリエーションがあったが、どれも後ろ足で踏ん張る事が前提なだけに、狙いが絞りやすい様で、順調に時間が過ぎている。
俺も蹴りを入れたり斬りつけたりは出来そうだが、どうせ大したダメージにはならないだろうし、このまま観戦だな。
「……ん?」
戦闘を上から見守っていると、不意に前方に何か明るいものを感じた。
最初の位置とは戦っているうちに大分変わってしまったが、俺は体の向きだけは変えていない。
俺の前方からの明かりって事は……!?
「ジグさん達の準備が完了したよ!離れてっ!!」
合図が上がった事を下の三人に伝える。
「セラっ!いいぞ!」
アレクの声に下に視線を戻すと、彼等も合図に気付いていたのか、すでに三人は距離を取り足止めとばかりに、テレサとルバンがサイモドキの足元にドカドカ魔法を撃ち込んでいる。
ジグハルトがどんな魔法を撃つのかわからんが、これだけ距離を取っていれば大丈夫だろう。
「ほっ!」
二人だけじゃなく東の2部隊にもしっかり見える様に、しっかり高度を取ってから魔法を撃ち上げた。
ジグハルト達がいる場所を見ると、二人の周囲を渦巻いていた魔力は無くなり、代わりにジグハルトが真っ赤に塗りつぶされて見えた。
【妖精の瞳】は、魔力は赤で生命力が緑で見えて、その強さによって大きさが変わって来る。
大抵の生物は緑が強く見えるが、魔力の赤色もちゃんと見えているのだが、これは……。
息を呑み、それを見守る。
「……ぉぉぅ」
そして、一瞬赤く鋭い光を放ったかと思うと、魔法が発射された。
赤い魔法と言えばルバンの赤光だが、アレは中心こそ赤だが周りは白く光っている。
だがこれは、ジグハルトを起点に真っ赤なペンキでべったりと塗ったように、赤いラインが引かれている。
東の拠点との中間あたりまでしっかりとだ。
「……あ、きえた」
何秒くらいだろうか?
少々度肝を抜かれて数えていなかったが、20-30秒そこらしか経っていないはずだ。
てっきり、ちゅどーんっと行くのかと思ったが、サラサラと何とも儚げに消えていった。
とは言え、威力は儚くない様だ。
魔法の軌道上にあった木々が音を立てて倒れていっている。
距離は、大体……2キロくらいか?
【ダンレムの糸】でも数百メートルだったのに対して、これは……木の密度を考えると、こちらの方が障害は多かったはずなのに……。
二人がかりだったとはいえ、10分あれば人間がこの威力を出せるのか。
「セラ!」
魔法の威力にドン引きしていると、下から声がかかった。
見るとアレクが手を振っている。
降りて来いって事かな?
「お待たせ。どうかした?」
「ああ。ポーションを一本頼む。折れちゃいないだろうが……左腕に力が入らない」
「……大変じゃないか」
そうか……、いくら盾を上手く使っていたからとはいえ、あの超重量級の打撃を無傷で凌ぐのは無理だったか。
慌ててポーチからポーションを引っ張り出して、アレクに渡すと、ポーションの半分くらいを腕にかけて、残りを飲んでいる。
「どんな感じ?」
「問題ない。関節や筋を痛めた程度で、すぐに治るさ。それよりも、アレはどうだ?今あいつらが確認に行っているが……」
アレクが指差したのは倒れ伏しているサイモドキだ。
それをテレサとルバンが、油断することなく慎重に近づいている。
……上から見た俺ならともかく、地上からでは、ただ倒れているだけにしか見えないからな。
ジグハルトから発射された魔法は、首を貫き、それだけで絶命させていた。
貫いた瞬間に、サイモドキの全体が赤く染まったのが見えた。
推測だが、魔法の魔力が流れ込み、体の中でショートに近い状態になったんじゃないだろうか?
……聞いたら教えてくれるかな?
「ああ……。二人ともー!それもう死んでるよー」
聞こえた様で、手を上げて応えているが、一応監視はするみたいで戻ってこようとしない。
「お?」
なにやらアカメ達から引っ張られた感触に上を向くと、明かりの魔法が撃ち上がっていた。
ポーション要請だ。
「もうこっちの戦闘は終わりだよね?」
「ん?ああ……どうかしたのか?」
「ポーションの要請。ついでにこっちが終わった事も伝えて来るよ」
そう言い【隠れ家】の中に入った。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・5枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・2枚