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サイモドキがアレクめがけて突進を開始しようとしたその瞬間。
「はっ!」
ルバンがサイモドキの左目あたりに魔法をぶつけた。
速度のある光球だが、威力はあまり無い様で小さく破裂しただけだった。
だが、気勢を削がれたのか、突進を止めてしまった。
その代わり、アレクが前に出ている。
槍は捨てているし、盾だけ持ってそんなに接近してどうするんだろう?
そう思うが、アレクはそんな事お構いなしに、手を伸ばせばサイモドキに触れられそうな距離にまで接近している。
「む!?」
サイモドキは突進は諦めたのか、代わりに右前足を振り上げ、アレクめがけて振り抜いた。
蹄が上にいる俺にも見えるくらい振りかぶっての、フルスイングだ。
足と言っても、アレクとほとんど同じくらいのサイズだ。
おまけに蹄があるし、当たったらただじゃ済まない。
グロい光景を想像し、思わず目を閉じてしまったが、辺りに車がガードレールに擦る様な、嫌な音が響いた。
驚き目を開くと、サイモドキの体に隠れて直接姿は見えないが、アレクは無事の様だ。
恐らく、盾で滑らせるようにして、攻撃を受け流したんだろう。
あの音は盾を蹄がひっかいた音か。
突進なら体重差があり過ぎて、技術じゃどうしようもないが、前足の薙ぎ払いなら捌けるようだ。
「アレーク。大丈夫ー?」
とは言え、あの巨体の一撃だ。
念の為にポーチにはポーションを入れて来ているし、怪我の有無を確認しないと。
「問題無い!」
こちらの心配に反して、元気な声が返って来た。
そうか……アレを無傷で凌げるのか。
そう感心していると、今度は左前脚で薙ぎ払ったが、再び先程と同じような音をさせて、捌いた。
直後、出来た隙をついて、ルバンとテレサが斬りかかったが、キィンと硬く高い音をさせ、弾かれている。
金属同士をぶつけたような音だが、皮膚は相当硬いようだ。
それにしても……、このサイモドキは一体何て生物なんだろう?
あの前足の動きは、草食動物じゃ無理だ。
肉食……それもネコ科の様な柔軟な関節じゃ無ければ出来ないだろうに……。
角と蹄、硬い皮膚……どれも強力だが、気を付ける点はそれだけじゃ無いのかもしれないな。
◇
戦闘開始してから2分ほど経った。
そんな僅かな時間にもかかわらず、三人の戦い方は大分こなれてきている。
まずはアレクが正面に立ち注意を引き付けて突進を促し、それを両脇のルバンとテレサが魔法を撃つことで妨害し、その隙をついてアレクが左右どちらかの懐に入り込む。
丁度視界に入る位置を選んでいる様で、攻撃はしてこなくても鬱陶しいのだろうか、前足で薙ぎ払おうとするが、それも盾で上手く受け流し、無傷で凌いでいる。
ここまでがワンセットだ。
あくまで凌ぐだけでダメージは与えていない。
サイモドキもすぐに仕切り直してくるから、もう何度も繰り返している。
そして、少しずつ移動しながら戦っているが、魔法の余波やサイモドキの蹄で、元々よくない足場がさらに荒らされている。
左右どちらかのチョイスは、その時その時の足場がいい方を選んでいるんだろう。
二人ももう攻撃は捨てて牽制に徹している。
他の大型の獣や魔獣との戦い方の応用なんだろうが、上手いもんだ。
上は全く警戒されていないから、何かチョッカイを出せそうな気もするが、頭部は角があるし、胴体は厚みがあるからクマの時と同じく、【影の剣】じゃダメージが入らないかもしれない。
安定しているし、何もしない方がいいか……。
周囲に魔物の姿は無し。
東の2部隊も異常無し。
西のジグハルト達も多分異常無し!
もうこのまま10分持ちそうかと思ったその時、視界の端を何かがよぎった。
そちらを見ると、今まではただ垂れさがっていただけの長い尾を、鞭のように波打たせている。
アレクはもちろんだが、二人もサイモドキの胴体に集中していて、その尾の動きに気付いていない様だ。
下の三人に注意を促そうとしたが、それより一手先にサイモドキが動いた。
体は移動したのに尻尾はついて行かず、その場に残ったままだ。
最近俺も尻尾を使っているから、狙いがわかる。
これは反対側に振り抜くための予備動作だ。
そして、この尾の長さだと左のテレサだけじゃなく、正面のアレクにまで届くはずだ。
「左から尻尾! 避けて!!」
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・5枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・2枚