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「よっ!ほっ!はっ!」
掛け声に合わせながら尻尾がぶんぶん動いているのがわかる。
「…………」
そして、動かせば動かすほど、訓練所を利用している者の視線がお尻に集まってきているが、無視する。
大きく横に振ったりグルグル回したりと準備運動は十分だ。
恩恵品の作動に準備運動が必要なのかは我ながら疑問だが、気分の問題だし、良しとしよう。
この訓練所は壁は木の板が張られているが、その壁の一画には木の板ではなく鏡が張られている場所がある。
決してポージングを決めたりする為ではなく、武器を手にした際の構えを確認したりする為の物だ。
その鏡の前に移動して、気合を込めながら尻尾に意識を集中する。
「ふぬぬぬぬ……」
ゼルキスではダンジョンに潜る事が出来ず、【蛇の尾】の戦闘面での性能テストが出来なかった。
そして一の森を始め領都周辺は、マーセナルから出張してきた職人達が、武具作成の依頼をどんどん消化し始めた事で、素材目当ての冒険者達がさらに増え、断念。
他の冒険者達の狩りが一段落した頃に試せばいいか……と後回しにしていたらあっという間に雨季に突入してしまった。
流石にこの雨の中は狩りに出たりはしないようだが、それは俺も同様だ。
帰還してからの一月近く、やったことは街の周りの警備の付き添いだけだった。
戦闘要員としてでは無いが、俺も一応魔王種との戦いに参加する事になっている。
リアーナの最精鋭で挑むわけだし、ジグハルト達は自信があるのか慣れなのか、余裕を見せているが……俺にはそんなモンは無い。
やれる事は全てやり、万全の状態で挑みたい。
と、いう訳で尻尾の訓練だ。
【影の剣】や【緋蜂の針】や【浮き玉】……俺が長く使っている恩恵品だが、どれも強力だ。
ただ、恩恵品そのものには俺の技量は関係無い。
誰が使っても同じ性能を発揮する物だ。
だが、この【蛇の尾】は巻きつけたり叩きつけたりする際の、いわば出力は決まっているが、どれだけ器用に操れるかは、使用者の技量次第だ……と思う。
セリアーナは不格好だからと使ってくれないので断言はできないが、多分そうだと思う。
つまり、この恩恵品は俺の工夫が介入できる余地があるって事だ。
今は振り回すだけでなく、木に巻き付けたり、魔物の死体に巻き付けて引きずったりは出来るが、まだまだ大雑把にしかできない。
何より、尻尾を動かすのに一々動きを止めて集中する必要がある。
もっと自然に、それこそ手足の様に操れるようになりたい。
その為の訓練だ。
「ぬぬぬぬ……!」
さらに深く集中し、尻尾をハートやクエスチョンの形にする。
この形自体に意味は無いが、ただ振り回すよりずっと神経を使うし、いい訓練になるはず……だと思いたい。
剣や槍や盾……色々な恩恵品があるが、どれも普通の武具の応用が利く物だが、これは正直どういう訓練をすればいいのかがわからない。
まぁ、始める前よりは少しは上手く動かせるようになってきているし、全く意味が無いって事は無いはずだ。
「セラ」
「うん?」
顔を真っ赤にしながら尻尾を動かしていると、セリアーナが後ろから声をかけてきた。
彼女もエレナと一緒に訓練所に来ているが、今日は剣ではなく槍を模した長い棒で型のような事を行っていた。
その棒で尻尾を突いている。
「随分苦労している様だけれど、それはサイズは変えられないの?お前の身体の倍以上あるのだし、短くなれば動かしやすくなるんじゃない?」
「……え?」
動かすのに力はいらないが、確かに長い分細かく動かすのに、動き全部をイメージするのが難しかったが……。
「お前の爪も長さを変えられるでしょう?似た様な物じゃ無い?」
と、ペシペシと叩きながら言ってきた。
「……!?」
そういや【影の剣】は長さを変えられた。
元々、最大で30センチ程度と短かったし武器として使用していたから、むしろ短いとは感じていても長さが邪魔と思うことは無く、長さを変えることは無くすっかり忘れていた。
「短く……短く……細く……細く……」
呟きながら、自分のウエストにベルトの様に巻き付く様をイメージしてみた。
すると何やら腰回りに違和感を感じ、そちらを見てみると、今までは太さ10センチ程で長さは3メートル程のニシキヘビみたいなド迫力サイズだったが、太さ2センチ長さは1メートル弱程と大分コンパクトになっている。
「ぉぉぉ……!」
「出来たじゃない」
おまけに全体が視界に収められるからか、少し試してみたが、大分イメージ通りに動かせている。
魔物相手に使うならリーチがある方がいいし、最大サイズを使うことになるだろうが、まずは使い方に慣れる方が大事だ。
これなら大分捗りそうだ。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・5枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・2枚