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「ぬああぁぁぁぁっぁっ⁉」
【祈り】の発動に成功した2日後。
満を持してようやくダンジョンへ向かうことになった。
妖魔種しか出ないゼルキスのダンジョンと違い、ここ王都のダンジョンは妖魔、魔獣、魔虫と、とにかく何でも出てくるらしく、この大陸でも有数の高難度ダンジョンだそうだ。
ダンジョンの構成は他と同じ様に、浅瀬から深層までとなっているようだが、出てくる魔物の強さ、密度が桁違いで、浅瀬ですら他の中層に匹敵するらしい。
上から見ると少し離れた所で戦っているパーティーがいくつかある。
内部の広さもそう。
他のダンジョンの浅瀬は、高さと幅は精々4~5メートル程の所がほとんどだが、ここは高さは倍近くあり、幅に至ってはそれ以上だ。
「ひいいいいぃぃっ⁉」
アレクはゼルキスに来る前にこの王都のダンジョンに挑んだことがあったそうだ。
1人では何とか浅瀬の中頃まで。
パーティーを組んでも上層の手前まででそこから先は断念したらしい。
もちろん今とは腕も装備も違うが、それでもどれだけ厳しい場所なのかがわかる。
「あぅあぅっ…」
年間維持費もゼルキスが聖貨210枚に対し、ここは500枚を超えているらしい。
その為、まずダンジョンに入る許可を得るために聖貨を10枚支払う必要がある。
もちろん貴族だったり、その推薦があれば違うが。
ただ、それだけでもこのダンジョンがどれだけ難易度が高いか伝わってくる。
「…セラ、終わったわよ。降りてきなさい!」
そう。このダンジョンはヤバいんだ。
「…大丈夫か?」
へばりついていた天井から降りてきた俺を見ていたのか、若干アレクの声に呆れが混じっている気がする。
王都ダンジョンに入ってすぐの事だった。
壁を這う2メートルくらいの長さのムカデの群れが現れた。
前世での子供の頃の話だ。
ムカデに足を噛まれクッソ痛い思いをしたことがある。
それ以来、ムカデは駄目だ。
虫自体あまり好きではないが、ムカデだけは駄目だ。
そんな訳で、半べそかきながら天井へ逃げていたのだが…
「お…おう。超余裕!」
うん、余裕余裕。
むしろ気を抜くと笑い叫んでしまいそうだ。
「そうか…まあ、無理はするなよ?…ん?」
何かに気づいたのかアレクが動きを止め、前へ向き直る。
なんぞ?と思いそちらを覗くと何人か駆け寄ってきていた。
確か近くで戦闘をしていた冒険者たちだ。
「リード戦士団の者だ」
武器から手を放し、手を上げ名乗ってくる。
これはダンジョン内で死者を出したくないギルドが、冒険者同士の揉め事を避けるために根付かせた作法だ。
ゼルキスでは主に中層以降で使う機会があると教わったけど、流石王都ダンジョン…浅瀬でこれが見れるとは。
何の用だろうか?
近くではあったが、戦闘エリアが被る様な場所でも無かったはずだ。
「ミュラー家付きのアレクだ」
アレクも同じようにして返答している。
「ミュラー…ゼルキスか!……叫び声がしていたが…大丈夫か?」
俺の方を見ながら言ってくる。
…俺のが原因だったのね。
「ああ、こいつは魔虫が初めてで、驚いたようでな…。騒いで悪かったな」
「ごめんね?」
俺も一応謝っておこうと、ウィンクに横ピースで続いた。
「そ…そうか。まぁ何も無いならそれでいい」
そう言うと、リード戦士団の面々は元の場所へ戻っていった。
わざわざ俺の叫び声を聴いて駆けつけてくれたことを考えると申し訳なく思う。
もし彼らが困っている事があれば力を貸そう…。
「セラ…君本当に大丈夫?」
エレナが心配そうな様子で声をかけてくる。
アレクも同様だ。
まぁ、正直今の俺のテンションはちょっとアレなことになっている。
自覚はあるが、でも仕方が無い。
「ひっひっひ!」
変な笑い声をあげ、見せびらかすように2人の前に手を広げる。
何を?
もちろん、さっき手に入れた5枚の聖貨をだ。
セラ・【隠れ家】【祈り】・【浮き玉】【影の剣】・5枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・4枚
エレナ・【】・【緑の牙】・0枚
アレク・【】・【赤の盾】・0枚