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見習冒険者。
正式にそんな制度があるわけでは無い。
他の場所だと、冒険者志望の者達は、ダンジョンに挑む事こそ出来ないが、街や村、農地や街道の警備などで、経験を積む事が出来るからだ。
ところがこの領都は、ベテランでも気を抜けば命を落としてしまう様な場所だ。
本来なら成人する14歳まで待たせるべきなんだろうが、今まで疎まれていた冒険者を目指す者が増えるのは良い事だと、冒険者ギルドと、騎士団の2番隊が主導となって指導をする事になった。
当初は10名前後を想定していたが、【ダンレムの糸】の試射がいいカンフル剤になったようで、秋冬の指導をほとんど脱落することなく乗り越えた。
その結果が20数名のガキンチョ共だ。
春になったら4~5人ずつ位で森に行き、俺が魔物の警戒をしながら薬草採集を行わせる予定だったが、ちょっと人数が多過ぎる。
全部を俺が見るとなると、何もできなくなってしまうからな……。
どうしたもんかと悩んでいたところ、猟師ギルド側が協力を申し出てくれて解決できた。
この薬草採集の目的は、あくまで森の歩き方を学ぶ為で、魔物との戦闘をする事では無い。
それならむしろ猟師の方が専門ともいえる。
彼等にしても、今後冒険者になった時に、森を不必要に荒らさないように躾ける事が出来るから、丁度良かったと言ってくれた。
おかげで俺が引率するのは週に1~2回だけで、残りの時間は好きに出来る。
さて、そんな訳で今日は栄えある第1回なのだが……、一体どんな指導をしたんだろうか?
今日は4人組と一緒なのだが、ものすごく慎重だ。
俺が魔物の警戒をしているとはいえ、彼等ももちろんしているのだが、一言も喋らず、ずっと視線を巡らせている。
薬草を採集する際も、1人が採集し残りの3人が、絶えず辺りをキョロキョロと……。
森を入ってすぐの浅い所を、1時間程探索するのだが、こんなんで彼ら持つんだろうか?
「あのさ……君達大丈夫?ここまで浅い所だと、冬に群れから追い出されたの位しか来ないし、そこまで辺りを探るのに気を使わなくても……」
油断するよりはいいに決まっているが、流石に一度も魔物と遭遇していないのに、顔を強張らせ、春とはいえまだ肌寒い中、額に汗を浮かべる程緊張しているのはどうなんだろう?
草や枝を踏んだ際の自分達の立てた音にも、いちいち反応している。
もし魔物と出くわしてしまったら、戦う前に心臓が止まりそうだ。
俺は冒険者として、何かを教えられる程の技量を持っているわけじゃ無いし、基本的に助言はしない様にと考えていたのだが、思わず声をかけてしまった。
「っ!?はっ……はい!」
カチコチに固まっている。
駄目そうだな……。
まぁ、今日が初日だし、この組じゃ第1陣って事で他の組から情報も得られないし、無理も無いのかな?
ペースは遅いけれど、一応採集は出来ているし、今は余計な事は言わずに自分達の事に専念させておくか。
◇
何事も……本当に何事もなく採集が終わり、街へ帰還し冒険者ギルドに向かった。
ゴブリンの1体も出やしねぇ……。
彼等はこれから採集した薬草の査定が行われるため、受付で待つ事になる。
そして、査定が終わった時にきっとがっかりするだろう……。
慎重過ぎて、ペースが遅かったからな……量が全然採れていなかったし、あれじゃ大した額にはならない。
そんな彼等はさておき、俺は俺で今日の報告に支部長の部屋にやって来ている。
そして、部屋の中では支部長や幹部達が俺の報告を聞いている。
春になって冒険者達が探索を開始して、忙しい中わざわざ集まっているあたり、この見習の育成システムを重要視しているんだろう。
「話は分かった。ガキ共の緊張をどう解すかが問題だな……」
「元々親にも森には近付くなって教わっていただろうが、座学の際に更にそれを煽ったからな……。戦闘に参加させて、倒す事が出来る存在だってわからせるのが手っ取り早いが……それじゃ意味が無いか」
報告を終えると、やはり子供達の緊張具合を問題視している様だ。
あれじゃあなぁ……俺はやらないけど、他の引率が何かアドバイスとかしても、聞き漏らしそうだ。
目的は小遣い稼ぎじゃ無く訓練だから、そんなんだとやる意味が無い。
「とりあえず残りの連中も終わらせて、それから考えてみるか?問題があるようなら組み合わせを変えてみたりすればいいだろう」
「そうだな」
最終的に、その無難な意見に、皆賛同している。
実際初めての事だし、やってみないとわからない事もある。
ただ、皆気が長いなぁ。
この街じゃ、冒険者ってのは日陰の存在だった時期が長いからかな?
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】・9枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
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