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「ぬあっ!?」
ガタンと大きな音を立て馬車が揺れ、思わず叫び声を上げてしまった。
街中では偶に乗る機会もあるが、基本的に俺は馬車には乗らないからな……まして街の外ともなれば、昨年の夏以来か?
「補修作業も進められていますが、まだ完璧ではない様ですね……。申し訳ありませんセラ殿」
街道の整備は騎士団の仕事でもある。
団長の副官を務めるミオが責任を感じたのか、頭を下げてきたが……。
「あら、この娘は座っている様に見えても浮いているから、大した事無いわ。音に驚いたんでしょう?」
フィオーラは流石にわかっている。
まぁ、彼女の膝の上に【浮き玉】を抱えて座っているし、体重がかかっていない事はわかっているからだろう。
対面に座るミオは不思議そうな顔をしている。
「馬車に乗る事なんてほとんど無いからね。ちょっとビックリしたよ」
道が荒れるのは雨季明けで、他の街に行く時はその前に移動する事が多かったからな……。
「通常よりも速度を出しているものね。揺れるのは仕方ないわ。それでも貴方が1人で移動する速さには遠く及ばないでしょうけれど……我慢して頂戴ね」
「うん。大丈夫」
目的地のアリオスの街まで2時間弱ってところだろう。
速度を出しているだけあって、俺は影響ないが、車体が結構跳ねたりしている。
3D酔いとかする人ならこれで酔ってしまったりしそうだが、幸い俺は平気なタイプだ。
【浮き玉】をかっ飛ばせば、20分かからない位だが、偶には馬車での移動も悪くない。
護衛の兵もいるが少数で気楽なもんだ。
【ミラの祝福】と、ついでに【祈り】をかけて到着するまで、のんびりしておこう。
◇
リアーナ領領都の一つ手前にあるリアーナ領第2の街、それがアリオスの街で、名前の由来はセリアーナの祖父、アリオスだ。
じーさんがゼルキスの領主だった頃から、その街を活動の拠点にして東部の開拓を行っていた。
最終的にルトルの街が出来、開拓の最前線ではなくなったものの、今度はルトルのバックアップの為に発展していった街で、ゼルキス領の頃から領内有数の街だったらしい。
ルトルのバックアップだけでなくて、万が一ルトルが魔物の襲撃で陥落した時には、アリオスの街で迎え撃つことになる為、戦力も多く有している。
以前の魔物の襲撃の時も救援を要請したのはアリオスの街だ。
ミュラー家も重要視していて、建設当初から代官は代々分家の者に任せていて、領地が代わった今でも引き継がれている。
そして今は、リアーナ領の副首都の様な役割をしていて、リアーナ領の物流の中心でもある。
人と物をいったんここに集めて、領内に再分配をしているそうだ。
色々役割が変わる街だと思うが、対応出来ているあたり、代官が優秀なのかもしれない。
孤児院にいた頃のルトルが他の街より荒んでいたのは、この街に手を出せなかったからその分もとかか……?
まぁ、いいか。
今日その街に向かっているのは、アリオスの街に今度の対魔王種戦に備えて様々な物資が運び込まれているからだ。
領都に運ぶのは全て揃ってからになるが、その中には錬金系の薬品も含まれている。
実験に付き合わされたが、結局何をするのかはまだ詳しく聞いていない。
何でも討伐の要になる様な大事な物らしくて、より品質の高い物を作る為にも時間をかけたいそうで、その薬品だけ事前に運び込む事になった。
その監督役として、フィオーラが向かう事は元々予定にあったのだが、数日前に追加で俺も行って欲しいとリーゼルから頭を下げられた。
セリアーナもその事は了承していたし命令したらいいのに、律儀なにーちゃんだ。
魔王種との戦いで、騎士団からも人数を出す事になる。
その際に、人数が減って落ちてしまったリアーナの防衛力を補填するのが、アリオスの街だ。
ただし、その分アリオスの街の兵士が減ってしまう。
そうそう異常事態は起きないだろうが、それでも街を危険に晒す事に変わりは無い。
必要な事とわかっていても、街を預かる代官としては、面白くないかもしれない。
そこで俺だ。
機嫌取りという訳じゃ無いが、街をないがしろにしていない、と俺を派遣する事で伝えたいらしい。
フィオーラが作業を見ている間、ミオが代官と兵士の派遣についての打ち合わせを行い、同席する夫人に施療を行うことになる。
テレサは見習達の指導があるので領都に残っているが、代官はセリアーナの親族でもある。
以前立ち寄った際も、砕けた雰囲気だったし、接待役が居なくても何とかなるだろう。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】・9枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・12枚