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テレサの下へ行くと、憔悴し座り込んだ見習達の姿が目に入る。
意外と女性貴族の生活って平民には正確には伝わっていないから、指導役のテレサはともかく、今ではすっかり侍女役が板についているエレナや、領主夫人で自分達の警備対象でもあるセリアーナにここまで圧倒されると、そりゃ落ち込みもするだろう。
エレナは【浮き玉】の操作を俺に譲り、セリアーナにタオルを渡しに行っているし……どうしたらいいんだ?
「姫」
「っはい⁉」
テレサの声に慌てて答えたが、ちょっと声がひっくり返ってしまい、テレサが不思議そうな顔をしている。
「姫、彼女達に【祈り】をかけていただけませんか?消耗したままでは訓練が出来ませんので……」
彼女達が憔悴しているのは、精神的にもだが疲労と痛みのせいでもあるんだろう。
俺の時と違って、布を巻いたりしていなかったし、手加減をしても痛い事は痛い。
「了解……ほっ!」
【祈り】を発動すると、見習達にテレサ、ついでに少し離れた所にいるセリアーナ達にも届いた様で、皆薄っすら光っている。
「⁉」
それを見て驚く見習達。
兵士達は昨年の襲撃の話を聞いていたのか、あまり驚きはしなかったが、彼女達は違ったようでしっかり驚いている。
これは驚くとしたら一回目だけだからな……驚いてくれて使った甲斐があったが……。
「ありがとうございます。彼女達は……まだ動けない様ですね」
まだへたり込み、肩で息をしている。
「この有様で大丈夫なの?」
一方こちらにやって来たセリアーナは平気な顔をしている。
集団戦の前に全員と一対一をやっているのに……。
「問題ありません。最初は皆こうですよ。これから一月かけて、最低限は動けるように仕上げますから、ご安心ください」
セリアーナの懸念を払拭するかのように、自信たっぷりに問題無いと答えるテレサ。
冒険者見習いの時も似たようなやり取りがあったな……。
「そう、ならいいわ。まだ時期にも余裕があるし急ぐ必要は無いから、しっかり鍛えて頂戴」
「お任せください」
と、やっぱり自信気に笑みを浮かべて答える。
それを受けて、セリアーナは鷹揚に頷いた。
「結構。汗を流すわ。エレナ、セラ、行くわよ!」
そしてそう言うと、こちらの返事を待たずに訓練所に備え付けられた、シャワールームへと向かって歩き始めた。
……疲れた感じはしないけれど、ちょと機嫌が悪そうだった。
どうしたんだろう?
◇
訓練所備え付けのシャワールームは男女別々になっていて、男性用は知らんが、女性用の方はちょっと豪華だ。
広々とした一室に片面にシャワーブースが有り、床はタイルが張られ魔道具の照明が明るく照らし、ブースの反対側には棚が並び、シャンプーや石鹸、タオルにガウンが置かれている。
中央の空いたスペースには寝台が置かれ、使用人によるマッサージが受けられるし、訓練所の備え付けって割には、前世の高級ジムのシャワールーム顔負けなラグジュアリーな雰囲気が漂っている。
魔境に隣接するこの街では、気軽に運動する事が難しい。
男性客の場合だと、騎士達と共に魔物の討伐に参加したりも出来るが、女性の場合はそれは難しい。
その為、この訓練所は滞在する女性客も利用できるようになっている……らしい。
まだ利用しているのは、俺達だけだからどうなるかはわからないが、今後はあの見習達も使うのかもしれないな。
「あの娘達はモノになるのかしら?」
シャワーを終え、エレナに髪を乾かして貰っているセリアーナがそう言った。
あの場では納得しテレサに任せた様な事を言っていたが、半信半疑だったようだ。
まぁ……あの体たらくじゃね……不安になっても仕方ない。
「大丈夫……と思いますよ?動き自体は悪くありませんでしたから。セラ、この街では住民が外の魔物を倒したりとかはしないんだったね?」
「そうだね。冒険者とか猟師以外はほとんど魔物と戦わないはずだよ」
俺のこの街にいた時の情報は、孤児院周辺だけと大分偏っているが、これは間違っていないはずだ。
「恐らく彼女達は、護身として剣や槍の簡単な扱いは学んだのでしょうが、集団での戦い方は知らないのでしょう。連携が取れず動きがバラバラでした。盾、牽制、止め……慣れていれば即興でもそれらに分かれますからね。テレサならしっかり身に付けさせてくれるでしょう」
「そう……それなら、もうしばらく待ってみましょう。セラ、冷たい飲み物が欲しいわ。奥から取って来て頂戴」
エレナの話を聞き、セリアーナは機嫌を直したらしく、顔に笑みが戻った。
「はーい」
良かった良かったと、ドリンクを取りに【隠れ家】を発動した。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】・9枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・12枚