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「廊下冷えるなぁ……」
風呂から出て、リーゼルの執務室へ向かう最中、廊下の寒さに思わず声が漏れてしまう。
この屋敷は冷暖房の魔道具が備え付けられていて、部屋はしっかり効いているが、廊下までは十分では無いようだ。
昨年の冬はそうでも無かったから、今年増改築した影響かな?
俺が薄着だからってのもあるかもしれないが、足元がスースーする。
ちなみに俺の服装は、頭にタオルを巻き、メイド服からエプロンだけ外した黒のワンピースに裸足……。
ゴロゴロ寝転がりながら裾をバサバサとする為、皴が目立たない格好だ。
上にもう一枚何か羽織っておくべきだったかな?折角風呂でのぼせるほど温まったのに、また冷えてしまいそうだ。
「お疲れ様です、セラ殿。どうぞ」
「はい。ごくろーさま」
執務室の前まで行くと、ドアの前に立つ兵士が何も言わずとも、中に入るようドアを開けた。
この部屋は領地の首脳陣が集まっているはずだが、フリーパスになっているのは俺もその一員って認識なんだろうか?
しかし、お疲れ様か……一応仕事を果たした事には間違いないんだが、俺の不在ってどういう風に説明してあるんだろう……?
「セラ、入りまーす」
一声かけて中に入ると、セリアーナ達にリーゼル達そして文官達と、いつもの面々が仕事をしている。
「お帰りセラ君。ご苦労だったね」
リーゼルがこちらを見て、ねぎらいの言葉をかけてきた。
もうすぐ日が落ちるというのに、疲れた様子は感じられない……タフなにーちゃんだ。
「ただいま戻りました。テレサはまだみたいだね……」
テレサはまだ来ていないのか……伯爵から手紙とかを預かっていて、屋敷に着いたらすぐに渡せるようにとテレサが所持していたのだが……まさか風呂に直行することになるとは思わなかった。
他にも荷物はあるがそれ等は【隠れ家】に放り込んである。
「これはテレサから先に渡されているよ。もちろん彼女からも直接話を聞かせてもらうが……それでもそこまで急な内容じゃない」
そう言いながら机の上に置いてあった手紙を見せてきた。
手紙の中身は簡単にだが、俺も聞いている。
領地間の荷の移動の手続きの簡略化だとか、特定の品種の税の免除がどうのとかだ。
もちろん決定したとかでは無く、今後何年間かかけて協議していこうという事らしい。
が、俺が知っているのはそこまでで、テレサがいない事にはどうにもならん。
テレサを待つのかな?
「リーゼル。もう今日の仕事はあらかた片付いたでしょう?それなら今日はもう終わりにしましょう」
◇
あの後セリアーナの宣言通り、あの場は解散となった。
ある程度仕事は片付いていたんだろうが、何ともフリーダム……。
そして移動の途中でテレサを拾い、セリアーナの部屋から【隠れ家】へ場所を移した。
中に入り、セリアーナはテレサから話を聞き、俺はエレナに髪を乾かして貰っている。
「はい終わり。動いていいよ」
「ありがと」
乾かしついでに、太い三つ編みにしてもらい、完了だ。
エレナに礼を言って、膝から降り【浮き玉】に乗った。
「どういたしまして。ゼルキスは楽しめた?」
「うん。【ダンレムの糸】もしっかり試せたしね。あぁ、奥様!」
忘れないうちに【ダンレムの糸】の事を向こうの冒険者ギルドに伝えた事や、得た聖貨からセリアーナに収める分を渡しておかないと……。
「……奥様?何その変な顔」
眉根を寄せ俺の顔を見ている。
普段からあまり表情を変えないセリアーナだけに、これはレアな光景だが……どうかしたんだろうか?
「少し間が空いたからかしら……お前に奥様と呼ばれると、ひどく歳を取ったように感じるわ」
「……まぁ、奥様の周りって子供はオレだけだからね」
歳を取ったように感じるかはわからないが、周りは大人ばかりだし、執務室にはエレナを除けばほとんどが男性だ。
一週間も空けば違和感を感じてもおかしくは無い……のか?
「……いいわ。今後お前は私の事はセリアと呼びなさい」
ミュラー家は基本的に、家族でも愛称では無く名前で呼ぶようにしている。
今のところその呼び方は、リーゼルとエリーシャくらいだ。
中々勇気がいる提案をしてくるじゃないか……。
「セリア……様」
とは言え、彼女の方から提示しているのだしと、意を決し呼んでみた。
最初セリアで区切ろうとしたところ、凄い目で睨まれたので慌てて様を付けると、満足気に頷いている。
「結構」
まぁ、若いねーちゃんだし、俺も奥様と呼ぶよりはしっくり来るかな?
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】・1枚(11)
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・12枚