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今俺はソールの街の代官であるガーブ・ランドール卿の奥方、グレア夫人の部屋で彼女の膝に乗り【ミラの祝福】を行っている。
「以前受けた時は、寝台で横になっていたのですが……今はこの様な方法でよろしいのですね」
「そうですね。以前の部位毎に行う方が効果は大きいそうですが、どうしても時間がかかってしまいますので……王妃殿下やセリアーナ様の様にセラ様の時間を大きく割ける方々を除けば、今はこの方法を採用していますよ。ですがご安心ください。私はこれまでも施療の場に立ち会ってきましたが、皆満足されています」
以前との違いに驚くグレアに、安心させるように言って聞かせるテレサ。
ちなみに俺は施療に集中するという名目で黙っている。
一応会話のネタになるものは無いかと、探してはいるんだが……何も見つからない。
この部屋は、寝室と応接スペースが一緒になっている、やや広めという事を除けばごく普通の部屋で、何か調度品が置かれているわけでも無い。
強いて言うなら、壁に掛けられている2枚の絵だが、1枚は既婚の貴族の女性なら大抵持っているミラの審判の絵で、もう1枚は家族が描かれた肖像画だ。
彼女自身は太ったりもせず日に焼け、手が荒れているところを考えると、外の仕事を手伝っているかもしれない。
質素、堅実。
これ位しか俺にはわからず、その情報をどう生かせばいいのか俺にはわからない。
「グレア殿は手先が少々荒れているようですが……、セラ様が爪に塗ってあるマニキュアは、爪や指先の皮膚の修復効果があります。この街でも栽培されている薬草を材料にしていますし、試されてはいかがでしょう?」
「まぁ……!街の薬師でも作れるのでしょうか……?」
一方テレサは同じ情報からでもしっかり話に繋げ、グレアの興味を引いている。
別にアイゼンと違って俺は困る様な事でも無いが……会話スキル低いなー……前世ならともかく、この世界の上流階級の女性の会話ってのは、よくわからないんだよな。
勉強……はしたくない!
何とか会話をしないでいい方向を目指していこう!
◇
施療を終えた後、夫の代官とともに見送られ街を後にした。
2時間弱と短い滞在だったとは言え、今回わざわざ寄り道をしたのは、休憩はもちろんそうだが、それ以外にも理由はある。
ゼルキス領都で改めてわかった事だが、俺の【ミラの祝福】は中々に価値がある。
そして、無理やり金ずく力ずくでは無く、俺に納得して施療を行われる事を望んでいるようだ。
だから俺の機嫌を損ねない様に、穏便に接してきていた。
俺の嗜好がよく分からないからだろうな……セリアーナのプロデュースの成果か。
帰って話したら、狙い通りと、きっと得意げな顔をするだろうな……。
まぁ、それはさておきだ。
俺は領都でセリアーナの客に何度か施療を行っているが、その中に各街の代官夫人はいなかった。
護衛は付くだろうが、女性だけで街の外に出る事は無いだろうし、夫の代官もそんな簡単に預かっている街を空けるわけにはいかないから仕方ないとはいえ、他領の人間が受けられるのに……と思われたらよろしくない。
セリアーナもその辺を気にして、俺がゼルキスに行く時の休憩に利用するかも?と伝えていたんだろう。
【隠れ家】だけで済ませているから無用になっていたが、足元は大事だ。
テレサにその辺の事を相談すると、「それなら帰り道に寄りましょう。急な来訪になりますが自分が対応しますので……」と言ったので、そうする事にした。
……頼もしい副官だ。
この街と領都の間にはあと3つ街がある。
流石に今回はもう行かないが、今後も少しずつ寄っていけるようにしたい。
「それでは、ここから少し速度を上げていきますね。3時間はかからないはずなので、日暮れ前には到着できるでしょう」
「うん。まぁ、いざとなればどこででも休息は取れるし、遅くなっても構わないから。無理なく行こう」
時間を少し気にするテレサを宥めつつ、しっかりとつかまる。
ここから山と森がいくつかあるが……それらを迂回する街道は無視して、一気に突っ切るんだろうな……。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】・1枚(11)
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・12枚