22
帰り道に俺の出番は無かった。
もうずっと振り回しっぱなし。
開いちゃダメな扉を開いてしまったんじゃなかろうか?このねーちゃん。
よほど楽しかったのか、ダンジョンを出た後屋敷に戻るまでの間もずっとご機嫌だった。
「随分機嫌が良いようだけれど、何かあったのかしら?」
報告のためにセリアーナの部屋に居るのだが、エレナの表情が気になったのか聞いてきた。
屋敷に戻ったころには元に戻っていたように見えたが、付き合いが長いと違いが判る物なんだろうか?
「はい。【緑の牙】ですが、実戦での使い心地は素晴らしかったです!これなら中層はもちろん、下層や他所でも戦えます」
「それはよかったわ。セラ、私はエレナの報告を聞いておくから、お前はアレクを呼んで来て頂戴。訓練場にいるはずよ。お前も部屋に来るのよ?」
「ん?はいよ」
2人はともかく、俺もか。
何だろうか?
「窓から出ていいわよ」
部屋から出て行こうとしたところ、そう言われた。
宙に浮いているわけだし、窓から出るのも好きにしていいと言われていたが、何となく抵抗があっていつもドアから出ていたが…。
中々の背徳感。
訓練場は中庭の一角にあり、2階の一番奥にあるセリアーナの部屋から普通に向かうと、ぐるりと屋敷の中を移動し、そこからさらに庭を移動と、結構な距離があるが、窓からだと屋根を越えてそのまま真っすぐ向かうだけで済む。
窓から出て、一気に加速し訓練場へ向かうが、1分かからない。
これはもう窓から出入りするしかないな…。
「アレーク!」
10人ほど訓練場を使っているが、その中でも一際大きいだけにすぐ見つかる。
「む。もう帰って来たのか?」
「エレナが大暴れしてね…。お嬢様が呼んでるから部屋まで来て」
「そうか。汚れを落としてから向かうと伝えてくれ」
「はいはい」
兵舎に向かうアレクを見送る。
入ったことは無いけれど、シャワーや食堂なんかがあるらしい。
俺も呼ばれているわけだし、ついて行かなくてもいいか。
部屋に向かおう。
◇
セリアーナの部屋へ着き、十数分程するとアレクがやって来た。
俺が部屋に着いた時はまだエレナが話していたが、今はさすがに落ち着いたようで、セリアーナの後ろに控えている。
そして俺はソファーに寝っ転がり本を読んでいた。
題名は「大森林同盟の歴史」
メサリア王国を含む4つの国の成り立ちで、結構面白い。
地政学や力学的な問題は一緒だが、何といっても魔物や聖貨といった地球に無かった要素が関わってくることで予測できない方向に突き進んだりしている。
図書室入れるようにならんかなー。
「すまん。遅くなった」
「構わないわ。セラ、お前も来なさい」
昨日アレクが残って話していたのは知っているし、多分アイテムや俺のことを話していたんだろう。
ダンジョンの感想や連携について話せばいいんだろうか?
「セラ、昨日今日とダンジョンはどうだったかしら?」
「問題無かったね。もっと奥まで行ったらわからないけど、浅瀬なら余裕」
「そう。エレナ」
「はい。昨日のアレクの報告通り、2つの恩恵品を上手く合わせて冷静に戦えています。【浮き玉】の性能も私たちの想定以上でした。本人も限界が見えていないようですが、少なくとも浅瀬程度なら危険に晒されることは無いでしょう」
おー、中々評価高いんじゃないか?
「そう。1人で自由にさせても問題ないかしら?」
「大丈夫でしょう。対人戦闘はともかく、逃げに徹すればそうそう追いつかれる速度ではありません」
「動きにまだ余裕があるとは思っていたが、それほどか⁉」
エレナの報告にアレクが驚いている。
質問したセリアーナの方を見るとアレクの驚き顔を満足気に眺めている。
さっきの間にもう報告を受けていたのだろう。
それよりもこの話し合いは何なんだろうか?
さっきちょっと出てたけど、俺が1人で動いてもいいって事?
それだと嬉しいなー。