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「ふっ!はっ!たぁぁっ‼」
じーさんと対峙するアイゼンの声と木剣の打ち合う音が、離宮の庭に響く。
背が伸びたという事もあるが、剣の腕自体も上がっている様で、一昨年よりもずっと鋭い振りをしている。
ただ……。
「はぁぁぁっ!……っ⁉」
まだ目の前の相手にしか意識を割けない様だ。
俺が上から投げた、布を丸めたボールが頭部に綺麗にヒットした。
「まだまだだな」
その隙に距離を詰めていたじーさんが木剣を突き付けそう言い放った。
「……くっ」
降りて行くと、悔しげに足元に転がるボールを睨んでいるのが見えたが、それを拾いこちらに持ってくる時にはもう顔には出ていない。
昔はなんかよく睨まれていたけれど、成長したなー……。
「お?」
「どうした?」
ボールを受け取りまた浮き上がるが、塀の外にこちらに近づいて来る馬車が見えた。
周りにわざわざ騎乗した護衛の騎士がいるし……馬車の中に見覚えのあるじじいもいる。
親衛隊の3人もいるが、襲撃犯の顔を見に行くだけなのに随分厳重な事だ。
「ウチの奥様が帰って来たみたいだよ」
奥様……セリアーナの事だ。
昨日ついうっかりお嬢様と呼んだら、尻をはたかれてしまった。
セリアーナは奥様。
リーゼルは旦那様。
気を付けねば。
「む?そうか……アイゼン。今日はここまでだ」
「……はい。ご指導有難うございました」
そう言い中に急いで戻って行った。
暑い中ずっと剣振っていたからね……汗だくだ。
……代わりに俺が出迎えるか。
玄関前に行き、その場で待っているとじーさん達から聞いたのだろうか、使用人達もやって来た。
そうして皆で待っていると、程なくして馬車がやって来た。
騎士達は先行し厩舎の方に向かっていったが、中で話でもあるんだろうか?
「お帰りなさいませ。旦那様、奥様」
馬車から降りてきたセリアーナ達に向かって、【浮き玉】に乗ったままだが、口上を述べ丁寧に出迎える。
一応教わってはいたものの、大抵一緒にいるから使う機会の無かった挨拶だ。
何となく俺が代表という事になってやっているが、主従関係を考えると妥当かな?
「セラ、顔を上げなさい」
「……」
この名指しは不穏な気配がする。
「セラ、何か言う事は?」
「……一つ」
「言ってみなさい」
「そのじじいが悪い!」
セリアーナ達と一緒にいるユーゼフをビシッと音が出そうな勢いで指差す。
それに釣られ視線が集まると、ユーゼフがやや決まりが悪そうに口を開いた。
「まあ……否定はせんよ」
と、ユーゼフ。
今のセリアーナとのやり取りで、俺が何を伝えたかったのかちゃんと伝わったようだ。
「ふう……まあいいわ。お前からも話を聞きたいし一緒に来なさい」
「……はーい」
◇
来客用の一室に集まり一昨日拘束してから今日までに分かったことを聞いた。
「本来の計画では、夜会に戦技会の勝者として刺客を潜り込ませ、奴等の起こした騒ぎに乗じセリアーナを仕留めるという訳か」
「ああ。この王都までの道中での情報を基に決行するか否かを判断する予定だったんだろうが、新たなルートでここまでやって来たことでその前提が崩れてしまった。もともと本命は戦力を集める事の出来るルトルでの襲撃だろうからな。失敗の恐れがある以上は無理をしないのだろう」
「なんだ?その割に決行しているぞ?それも昼間にだ」
「ああ。事前に連絡があるはずなのに無かったそうだ。まあ、所詮は捨て駒だからな。下手に接触して探られる危険は避けたかったんだろう。奴等もそれで大人しくしておけばいいものを……あそこで自分達だけで動いてもどうにもならんだろうに。それでも無理に行動を起こしたから、結局捕まり牢に入る羽目になったわけだ」
そう言い、笑い声をあげるじーさん達。
見るとセリアーナやリーゼル。
俺の中では常識人枠の親父さんやアレク、エレナ達もだ。
お粗末な結果だったとはいえ、何で笑えるんだろう……?
あ……同席していたアイゼン君や親衛隊はドン引きしている。
よかった。
俺もそっち側だ。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・【琥珀の剣】5枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・4枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・10枚




