20
エレナ・バゼット。
セリアーナの護衛を務める19歳の女性で、家はミュラー家に仕える騎士の一族バゼット家。
そこの長女として生まれ、1歳上の兄が居て、家風もあってか一緒に剣を習う。
幼いながらも剣の他、馬術弓術でも才を見せるが、何より魔法の素質があった。
王族の女性を守護する女性専用の騎士団があるが、入団資格で高位貴族の生まれ、あるいはその一族である必要がある。
王都でも知られていたこともあり養子や婚約の話も来ていたが拒否し領内に残る。
今から5年前、冒険者として活動をしようとしていたところ、当時8歳のセリアーナの護衛兼家庭教師の一人として契約し現在に至る。
結構凄い経歴だと思う。
パッと見、長身のカッコイイ美人さんで、女子校とかだとモテそうな感じだ。
そのカッコイイ美人さんが鞭みたいな物でゴブリン達をしばき倒しているんだけどどうしよう…。
先日ガチャでゲットしていた【緑の牙】。
見た目は小振りなナイフだが、何か凄い伸びている。
2メートル位かな?
鞭みたいな動きをしながら切るし刺さるし…これやばいな。
掻い潜って近づいても魔法で吹き飛ばされて、そこを切られ刺されと…。
最初の戦闘の前に危ないから下がっておくよう言われたけれど、こういう意味だったのか。
「…君、そんなところにいたのか」
やべぇ…と思いながら3メートル位離れた位置の天井に張り付いていると、倒し終えたエレナが話しかけてきた。
「うん。何か凄いね…それ」
念の為周りに魔物がいないか確認し、エレナの側に降りていく。
「面白いでしょう。まだまだ使いこなせてはいないけれど、距離を取って魔法と合わせて戦えそうね」
満足気に【緑の牙】を眺めている。
そういえばこの人魔法もあったな。
アレクの場合は【赤の盾】でがっちり引きつけていたからやり易かったけれど、どう合わせたらいいんだ?
近づいたら切り刻まれそうなんだけど…?
「昨日のアレクとの時は裏を取っていたと聞いたけれど、今日は君が前で戦ってくれるかな?私が後ろから指示を出しながら援護するからね」
「ふむふむ」
なるほど、俺が前衛になるのか。
あの動きに合わせる技術なんか無いし、それが良いのかもしれないけれど…こえぇ。
「無理しないで1匹ずつ倒していけばいいから、安心しなさい」
「わ…わかった!」
まぁこの辺りは一度に出てきても2匹程度だし、大丈夫だよね?
◇
昨日は天井に張り付き、アレクがひきつけている間に裏に回って一撃でって戦い方だったけれど、今日は地面から1メートル程の高さを【影の剣】を伸ばし、早歩き程度の速さで進んでいる。
この浅瀬と呼ばれる場所は、新人の増える春先は多いが冬になる頃にはその新人達も奥や上層へ行くようになり、もうすっかり寂れている。
その為、人の居ない浅瀬の手前から中頃にかけては、ガチャ報酬の試験場的な扱いになるのだが、そもそもガチャを引けること自体が少ないため、ほとんど人はいない。
地下街を1人で歩いているような妙な怖さがある。
時折聞こえてくるゴブリンの叫び声がより一層それを増している。
まぁ、すぐ後ろにもっと怖いのが控えているんだけれども。
ちらりと後ろを振り返ると、3メートルほど離れた所をエレナが歩いている。
安心させるためだろうか?手にした【緑の牙】を軽く振っている。
早く出てこないかな~
と、願いが通じたのか5メートルほど手前に1体のゴブリンが現れた。
ゴブリンが体勢を整える前に、攻撃の届かない2メートル程の高さまで前進しながら上昇し、そのまま
縦に回転し頭部を真っ二つに切断した。
切断する際に抵抗こそ無かったが、少し違う感触があった。
多分これが核なんだろう。
この方法なら汚れずに核の処理もできる。
完璧じゃないか!