202
寒風吹きすさぶ冬の3月。
【浮き玉】と【妖精の瞳】だけを装備して、手袋にタイツ、靴下も身に付けた完全防寒スタイルで、水路の凍結点検に外に出ている。
「あ、凍ってる……!」
水路の凍結……今は水の流れが少々滞る程度だが、放っておくと詰まったり逆流したりするから、早めに対処するのが効率がいい。
そんな訳で、壁を越えて上から監視できる俺の役割だ。
そして、早期の凍結ならコレで解消できる。
「ほっ!」
ポーチから引っ張り出した、「燃焼液」とか言う大量の水と混ざると高熱を発する錬金アイテムを凍結した部分に撒いた。
「ぬぉっ⁉」
凍結部分に触れるなりジュワっと音を立て、辺りに湯気が満ちて行く。
そのまま侵食するように融かして行き、あっという間に氷が消え去った。
……これ魔物の骨とか胆汁だかを素材にしているらしいんだけれど、どうやったらこんなヤベェもんが出来上がるんだ?
一応取り扱いには気を付けるよう言われているが、肌にかかった程度じゃ熱は発する事は無く、コストがかかるという問題にさえ目を瞑れば安全なアイテムらしい。
「さて……もう問題は無いか……あるね」
解けたのを確認した後、水路を川まで辿ったのだが、川を渡ったその先にはゴブリンが2体いる。
大分森の浅瀬にも魔物が戻って来ているらしいが、まだまだその数は多くはない。
その為か、時折意味も無く森から出てくる魔物もいるらしい。
正にこいつらがそうだ。
「……これならいけるかな?」
強くなく手ぶら。
掴んで投げられるようなものは近くには無い。
念を入れて高度をしっかりとり接近すると、ゴブゴブも俺に気付いた様でギャーギャー喚いて飛び跳ねている。
森に引き返すという選択をしない時点でこいつらはあまり賢くない雑魚だとわかる。
これは勝ったな……。
漂いながら勝利を確信してしまった。
「よしっ行こう!」
そのまま急降下し、一気に接近。
その動きに驚き反応できない様で、突っ立ったままの2体の間をすり抜けた。
その際にコートの裾からウチのヘビ君達が攻撃を仕掛けている。
「……おや?」
ゴブリンだけでなく、ウチの新人もまだ慣れていない様で、1体仕留めそこなった様だ。
と言ってもダメージは入っていたようで、蹲っている。
「もういっちょ!」
流石にこれは外さず、しっかり頭を貫き止めを刺した。
「よしよしお疲れ。……さて……どうすっかねー」
ゴブリン2体の死体。
ちゃんと街まで運んだ方が良いんだろうが……少数なら放置してもいいとは言われている。
2体の為に街から呼ぶのもな……。
巡回で通るだろうし報告だけしておくか。
◇
「潜り蛇」
王都で魔物の違法取引に使われていた建物で偶然従魔にした魔物だ。
名前はアカメと付けたが、それはイレギュラーで本来は外にいる。
それ自体の戦闘能力は低いと言われているが、特徴として魔王種や強力な魔物と共生関係にある事。
2ヶ月近く前に倒したその強力な魔物。
そいつにも一匹付いていて、解体に立ち会っている時にアカメが気づき、そのまま俺の影に引き入れていた。
俺は気付かなかったが、屋敷に戻った時にセリアーナが気付き判明した。
サイズや見た目はほとんど一緒だが舌が白いので、シロジタと名付けた。
ただ、今一生態はよくわからないが、魔境生まれなのにアカメより大分弱いんだよな……。
やっぱダンジョンで魔物の核齧らせた方が良いんだろうか?
そんな事を考えていると、屋敷の上に到着だ。
夏だとこの時点でもうセリアーナの部屋の窓が開いているが、冬だし閉まったままだ。
「あーけてー」
外から呼びつつノックをすると待機していたのだろう、すぐにエレナが開けてくれた。
「ただいま」
「お帰りなさい。寒かったでしょう?」
「うん。水路も凍ってたよ。……はぁー……」
コートとケープをエレナに渡し、ソファーに寝転がり天狼の毛布を顔までかけた。
暖かい……。
一息ついて顔を上げるとこちらを見ているセリアーナと目が合った。
報告待ちか。
「凍結は「燃焼液」を1本使って処理したよ。それと、川の向こう側で森から出てきたゴブリン2体がいたから倒したんだけど、死体はそのまま置いて来たんだよね。巡回の兵が処理してくれるかな?」
「結構。「燃焼液」は後で補充させるわ。それと死体は放置で問題無いわ。ご苦労だったわね。後10日~2週間程で寒さも和らぐはずだから、それまでお願い」
後もうちょいか……。
「はーい」
春が待ち遠しいぜ。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・8枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・3枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・10枚