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「ぉぉぉ……」
屋敷の玄関ホールに運ばれたそれを見て、思わず漏れる声。
俺だけじゃない。
立ち会った兵達も、見に来た使用人一同もだ。
「でっかいねぇ……」
目の前に置かれた物。
それは襲撃のボスである、あのクマの頭部だ。
戦っている時も見ていたが、夜だったし距離もあった。
こうやって明るい場所で改めてみるとその大きさがよく分かる。
頭だけなのに俺よりデカい!
そして、重さもだ。
兵士4人が板に乗せて、屋敷の玄関前からえっちらおっちら運んできたが、たかだか10数メートルにも拘らず既に息が上がっている。
「本当ね……これを倒したジグハルトも流石だけれど、アレクもよく前に立てたわね」
セリアーナとリーゼルも近くにやって来て、感心したように言う。
「仲間の援護がありましたからね。しかし……俺の一撃は全く痕が残っていませんね……」
同じく近寄ってきたアレクが、クマの頭をペタペタ触りながら答えた。
「いい一撃だったと思うんだけどね……」
眉間辺りを殴っていたと思うが、骨はおろか皮膚にすら痕が残っていない。
倒せてよかったよ……。
◇
冬の2月頭。
襲撃から一月近く経ち、職人の応援も到着したことで、魔物の死体処理も進んでいる。
職人のロブも駆り出されて、大忙しらしい。
便利だったからもう少し大きいポーチを作ってもらおうと、店に行ったら追い返された。
そんな忙しい職人が手を割かれていた仕事の一つが、クマの処理だ。
首は無くなったが、それ以外は大した傷無く頭部に胴体と、ほぼ1頭分あった。
魔王種ではないとは言え、デカく強大なクマのボス。
そもそも通常の道具では歯が立たず、熟練の職人でも解体には大分苦労していた。
俺もその間冒険者ギルドに常駐し、解体作業をしている者達に【祈り】をばらまいている。
臭いから正直解体場には近寄りたくないんだが、思わぬ収穫もあったしまだ半分近く残っているが良しとしよう。
毛皮から骨、爪は処理して武具の素材に。
内臓は何かの錬金素材に。
大量の肉は保存食へ……あのサイズだと硬くてあまり美味しくは無いそうだが、それでも相当な量だ。
開拓村の冬の間の食料に充てるそうだ。
そして、この頭部。
見事な剥製になった。
春、王都に向かう途中で領都に寄り、そこで献上することになっている。
せっかく倒したのにと思うが、ここはまだゼルキス領だし、職人や他にも人、物、金と色々融通してもらった代金代わりにするそうだ。
もっともそれまで日がある為、屋敷に飾る事となった。
最初はリーゼルの執務室に置く予定だったが、如何せんこのデカさ。
部屋に置いたら話どころでは無くなるので、変更しこの玄関ホールに設置することになった。
設置すると言っても、壁にかけたりするには大きいし重すぎるので、まず台座を建ててその上に置くことになっている。
屋敷に入ってすぐのひときわ目立つ場所に設置する為、運搬して来た兵士に、職人とがドタバタしている。
頭一つ置くだけでも大仕事だ。
「……これお客さん引かない?大丈夫?」
俺が心配することでは無いかもしれないが、本当に大丈夫だろうか?
春までお客さんは結構来るそうだけれど……。
「それならそれで問題無いよ。僕達には死者はもちろん大した被害を出すことなくこれだけの魔物を倒す力があるという宣伝になるだろう?まあ……屋敷で働く者には慣れてもらわないといけないね」
ホールを見渡しながら言うリーゼル。
その視線を追っていくと、使用人達の姿が目に入るが……顔は強張っている。
この街の人間は基本的に街壁の外には出ないからな……。
大きな街だとたまに二つ名持ちなどが大物を倒した時に、広場なんかで披露する事もあるが、ここじゃ少なくとも俺が知る限りそんなことは無かった。
ゴブリンとかの小物ならともかく、ここまでの大物を見る機会なんて無いだろう。
「設置完了しました!」
ちょっと出世し、小隊長となったマーカスが作業の完了を報せた。
今の所便利使いされる何でも屋だが、そうそう出世する事態なんてあっても困るし、コツコツ仕事をこなしてもらおう。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・7枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・3枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・10枚