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「3枚⁉」
帰還後、初ダンジョンの成果をセリアーナに教えると、随分驚いている。
普段のすまし顔を考えると、この表情は貴重だと思う。
今回の探索は、アレクの【赤の盾】の実戦での試用と俺のダンジョン見学&実習がメインで、浅瀬の中頃までを2時間程かけてウロウロしていた。
ダンジョンは、浅瀬、上層、中層、下層、で構成され、浅瀬は舗装され、魔物も少しずつしか出てこないいわば初心者ゾーン。
上層の中頃から舗装が無くなり、魔物の出現率や一度に出てくる数も増え、強力な魔物も出始めてくる。
下層ともなれば強力な魔物だらけで、部隊を組んで、ギルドに申請し審査を受けなければ探索許可が出ないそうだ。
浅瀬は登録さえしていれば、探索届を出すだけでいいのに対し、随分な厳重さだ。
聖貨を得られるのは、魔物の数が多くまた強い中層からがほとんどだと聞いた。
浅瀬で3枚となれば中々の快挙だ。
「どうかした?」
落ち着いたのか驚いた顔から今度は少し困惑顔へとなっている。
これはこれで珍しい表情だが、聖貨ってたくさん出しちゃまずい物なんだろうか…?
「ええ…、ダンジョン探索は領主の利権の1つなの。…利権はわかるかしら?」
利権がどう繋がるのかわからないがとりあえず頷く。
税金でもとられるのかな?
「そう。ダンジョンの管理はギルドに任せてあるのだけれど、冒険者達はダンジョンで得た聖貨を報告しているの。そして半分をギルド、つまり領主に献上しているわ。その分税の優遇などはあるのだけれど」
「ほう?」
俺報告とかしてないぞ?
アレク?
アレクの方を見ると肩を竦めている。
「それはあくまで一般の冒険者の例で、お前もだけれど貴族と契約している場合は3枚に1枚なの。ただ、2人もだけれど、大体年に3枚程度よ。…1日で3枚というのは無いわね」
「ほうほう。1枚渡せばいいの?」
1枚の差ってのはでかいね。
「それと、お前も見たように、聖貨を使って得た恩恵品は主の物となって、それから下賜されることになるわ。いきなり聖貨を手に入れるとは思っていなかったから説明していなかったわね…」
セリアーナが申し訳なさそうな顔をしている。
この顔も珍しいんじゃなかろうか?
それはさて置きだ。
「オレもう2個持ってるんだけど、それも渡すの?」
【浮き玉】と【影の剣】は俺の生命線でもあるし、いくら使用権はあるといってもこれを渡すのはちょっと躊躇うぞ?
「もともとお前が持っていたものだし、それはお前の物よ。これから新しく得るものは別だけれどね」
「じゃ、問題無いわ。はい」
【隠れ家】と合わせてこの3個があればどうにでもなるし大丈夫だ。
「ええ。ご苦労様、ちゃんと記録しておくから安心しなさい。後の報告はアレクから受けるから、お前は今日はもう休んでおきなさい」
「はいよ。お疲れ様ー」
まだ昼になったばかりだけれど、折角の早上がりだ。
後はごろごろしておこう。
そう決めセリアーナの部屋を出て行った。
◇
「それで、どう?あの子は」
「技術に関しちゃ何とも言えません。ただ、頭は悪くないですね。言うことは聞くし、勝手な行動はしない。説明しなくても上手く連携を取ろうとしていたし孤児上がりにしちゃ上出来でしょう。恩恵品2つも上手く使えていましたし、まぁ、十分じゃないですかね?下はともかく、浅瀬なら1人でも大丈夫なくらいだ」
セリアーナの問いにアレクはダンジョンでのセラの様子を思い出しながら答える。
「そう。エレナ、明日は貴方が見て頂戴」
「はい」
「ただ、聖貨を1日で3枚というのは気になるわね。他所からもそんな報告は無いはずだし…気になるわね」
「ええ。下層や外の魔境の探索の部隊の合計で、などは有りますが、1人で、それも浅瀬でとなると…」
セリアーナの言葉にエレナも続ける。
「特に変わったことはしていなかったが…、まぁ一応気を付けて見ておいてくれ」
「わかったわ」