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「ほっ!っと……これで全体に回ったかな?」
この戦闘が開始されてから1時間程が経った。
魔物の中には潜り蛇の様に魔力に敏感で、回復や支援を行う者を率先して狙って来るようなのもいる。
未だに【祈り】はどういうシステムなのかよくわかっていない為、この魔物の群れの全体像が把握できるまでは使用を禁じられていた。
だが、まだ森に偵察に入った者達は戻っていないが、それでも魔物の種類やその戦い方から予測を立て、使用のGOサインが出た。
ボスが妖魔種の場合、オーガやオークならそもそも自分達が主力として突っ込んで来るそうで、今回はそれが無い事から除外。
ゴブリンならその点お構いなしだが、戦い方が違うらしい。
ゴブリンなら雲霞の如く突っ込んで来る。
そして、草食動物の場合だと、森から人を排除し外縁部まで姿を見せる事はあっても、街を襲ってくることは無い。
何故なら草食だから。
同じく雑食も似たようなもので、これで肉食動物に絞られた。
オオカミの場合にしては同族を使い捨ての様な戦い方で、これも没。
そして、これだけの数を纏められるだけの力があるものとなるとクマだろうと結論が出た。
攻勢に出て万が一ボスに逃げられてしまうと、また群れを作り同じことが起こりかねず、慎重になっていたが……。
ボスが群れの中の一匹のオオカミに比べ、デカいクマならたとえ逃がしてしまっても痕跡が追いやすい。
デカいってのは大変だ!
「とぉっ!」
急降下し【影の剣】を頭部に突き刺し、またすぐに離脱。
【祈り】を撒いて、ポーション届けてと支援役を務めているが、折角なので群れから外れて孤立している個体を積極的に刈り取っている。
処理の事を考える必要が無く、ただ倒すだけでいい。
最近は狩りに出る事が無かったし、この機会に稼がせてもらおう!
それにしても、何故か戦闘が行われている場所から少し外れたところにポツンといる事が多い。
あれなんなんだろうな……サボり?
一息ついたところ、戦闘音に交じって響く笛の音。
「⁉……今度はお薬か」
どこだ?
◇
「あれ?」
笛の音のした場所を探して上空をさまよっていると、10数人で戦っている集団が目についた。
相手にしている魔物の数も多く、盾やアタッカーの役割関係無しに乱戦になっている。
さらにそこから少し引いた位置に倒れている女がいた。
呼んでいたのはここか。
戦闘自体はすぐに終わり、負傷者も彼女しかいない。
指揮を執っていた男の下へ行くと彼も気付いたようだ。
「⁉来てくれたか!ポーションを……」
誰かと思えばマーカスじゃないか。
参加してたのか……。
「あ、はいはい」
とりあえずポーションを渡し、俺も彼女の様子を見てみると、ちょっと妙な事に気付いた。
攻撃を受けた個所は頭と足の様だが、何故か傷があるわけでも無いのに胴体にも血がべっとり付いている。
「何があったの?」
「孤立していたゴブリンがいたんだ。彼女はそれを狙い近づいたんだが、突如そのゴブリンが近くに放置されていた魔物の死体を投げつけて来て……今までそんなことをしてこなかったから油断をしていたのか躱すことが出来ずにまともに当たってしまったんだ。そこを狙われた」
「ほー……」
驚きだ。
この戦場だとゴブリンは投擲に使う石も枝も無いから、ただ単純に殴りつける位しかしないと思っていた。
そして、それじゃあいくら身体能力が上がっても、こちらの腕の立つ連中には通じない。
俺だって上から適当に襲って安全に倒すことが出来ていたし、ボーナスキャラみたいなもんだと思っていたが……魔物同士の連携のスイッチみたいな役なのか。
こちら側が攻勢に転じて死体の数が増え始めたから動きが変わって来たのか……それともそんな事関係無しに戦い方が変わって来たのか。
これはもう一度報告かな?
しかし、マーカス。
今までお薬のお世話になっていなかったし、何だかんだ魔物の新しい戦法も周りと連携を取って切り抜けた。
結構やるじゃないか。
これはセリアーナやリーゼルに報告して評価を訂正してもらうべきかな?
「⁉」
感心していると、今度は短い間隔で笛の音が3度鳴った。
今作戦では笛の吹き方で用途を分けてある。
1度だと救助要請で、2度だと援軍。
そして、3度の場合は、ボス発見だ。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・3枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・3枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・8枚