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冬の一月。
この街で暖かい部屋の中で冬を過ごすことになるとは、かつての俺は考えもしなかった。
窓から暗い外を見ると、明かりに照らされる屋敷を警備する兵士の姿が目に入った。
寒いのにご苦労様です。
「ふひひ……」
ついつい笑いが漏れてしまうってもんだ!
「……あいつどうしたんだ?」
「この街に何か思う事があるのでしょう」
笑い声が聞こえたのか、アレクとエレナはコソコソ話をしている。
「お前……あまり意地の悪い事をしていると癖になるわよ?」
セリアーナは俺が何を笑っていたのか気づいたようだ。
ただ、その言葉はそのまま言い返したい。
先日のレフの代官の息子、マーカス君。
彼の事を知っているかと聞いていたのは、知っていると答えたらマジで採用するつもりだったらしい。
そして俺が持って行ったあの手紙には、マーカスの目の前で訊ねろと書かれていたようだ。
一応言い分としては、領内の人間関係に疎い平民の俺ですら知っている程の人物なら、多少の資質の有無に目を瞑ってでも手元に置く価値はあるって事らしいが……茶目っ気の強いにーちゃんねーちゃんだ。
結局不採用になった彼だが、何だかんだ一兵士からなら、という申し出を受け今も真面目に働いている辺り、人間性は悪く無いんだろう。
まぁでも、そんな圧迫面接の様な場にいきなり放り込まないで欲しい。
「お……?」
ものはついでと、街壁の上で見回りをする兵も見ておこうと思い、距離があるのでアカメの目を発動したのだが……。
何か妙だ。
「どうしたの?」
「うん……いや、何か外に……」
今いる代官屋敷は街の南西に建っていて、俺が見ていた方角は大森林のある東側だ。
街から東側に出たすぐ側に兵士の訓練場がある。
そこには物置と休憩所が建っているが、夜に利用されることは無く、あの周辺に人はいないはずだ。
ただ、そこに何かがいる。
距離があるのでいる事しかわからないが……。
「ふっ!」
【妖精の瞳】を発動した。
これならもう少し情報が増えるし何かがわかるかもしれない。
「……魔物?」
最初は点にしか見えなかったが、5体の生物であることが分かった。
【妖精の瞳】は距離があり過ぎると、体力と魔力が混ざり合って見えるが、その色合いから通常の獣ではなく魔物っぽい。
「どこだ?」
すぐ隣に来ていたアレクに見えた方を指差し教えるが、肉眼では精々街壁の上の兵が持つ明かりしか見えない。
「貸しなさい」
同じく近寄っていたセリアーナはそう言い手を出した。
3キロ位離れていると思うけれど……やる気か?
「ほい。訓練場のもう少し先かな?5体いたよ」
【妖精の瞳】を渡し、ついでにより詳しく教える。
「結構」
【妖精の瞳】を付けすぐに発動した。
目を閉じ眉根を寄せているが、大丈夫だろうか?
「ふぅ……」
数十秒程度だったが、額に汗が浮かんでいる。
「魔物ね。まだ奥にもいるわ。セラ、下の2人を第1会議室へ連れて来て頂戴。アレクはリーゼルへ報告を」
「はっ!」
指示を聞くやすぐに駆け出していくアレク。
下の2人はジグハルトとフィオーラの事で、第1会議室は本館の一番大きな会議室だ。
この街の上層部を集める時に使うとか……それ程の事なのかな?
◇
ジグハルト達を連れて会議室へ向かうと既にアレクとリーゼルにオーギュスト、他騎士数名が会議室に集まっていた。
ここへ来る途中に外に走っていく兵士とすれ違ったし、あれこれ伝令を出しているんだろう。
2人もそちらに合流し会話に参加している。
俺はどうしようか……緊急事態の様だし。
「早いわね」
入口からの声に振り向くと、先程までのラフな格好からしっかり着替え、軽くだが化粧まで済ませたセリアーナが入って来た。
「それだけ事の重要さが理解されているのでしょう」
次いでエレナも入って来た。
服装は変わっていないが、剣を下げている。
……俺は寝巻。
魔物が近くに来ているのはわかったけれど、ここまで慌てる様な事なんだろうか?
「セラ、これを」
エレナから受け取った物は部屋に置いていたケープ。
これがいるって事は、外に出る事になるのかな?
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・3枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・3枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・8枚