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「セラ……お前どれか一つだけに出来ないの?」
少し呆れを含んだセリアーナの声。
最近聞き慣れてきた気がするけど、気のせいだと思いたいな……。
「これが一番はかどるんだよね」
今俺がやっている事は、部屋に敷いたマットの上で足を180度開き、更に上半身を真横に倒した状態での読書だ。
ロブの店に行った2日後。
予定通り蛇の模様を入れた商品を持って彼が屋敷に届けに来た。
蛇が玉に巻き付いている姿で焼き印を作ったらしく、今後注文したらそれを入れてくれるらしい。
彼は俺の客で、本来なら1階にあるあまり格の高くない部屋に通して、俺だけかあるいはアレクが同席して応対するのだが、話を聞いたセリアーナが興味を持ち、自分の部屋に通した。
ここで普通の商人だったら、折角代官の屋敷に向かうのだから何かしら売り込めないかと商品を持ってくるものだが、あまり商売っ気の無い彼は、俺の買った2つ以外は持って来なかった。
そういう所を面白がったのか、色々街の昔の事を聞き出し、興が乗ったのか俺にもう1品買い与えると言い出した。
とは言え、欲しい物は自分で買った。
他の物といっても、マントはケープがあるし、手袋は【影の剣】がいざという時に使えない。
装飾品もただでさえ俺は色々身に付けているのに、そこに革製の物じゃバランスが悪い。
セリアーナの手前断るわけにもいかないし、さてどうしようか……と悩んだ結果、希望の物を作ってもらうことにした。
それがこのストレッチマットだ。
厚さ1センチで縦80センチ、横180センチ。
10年以上前に大暴れしたクマの魔物の皮で、お値段なんと金貨8枚。
技術代はほとんどかからず、ほぼ素材代らしい。
まぁ、これだけのサイズを継ぎ合わせず1枚で採っているからな……。
この世界でもクマは強く、魔物ではない通常の獣でもオーガやオークとの強さ談議で度々比較される存在だ。
それが魔境で魔物になっているんだから、さぞ強かったろう。
ロブはいつか使うかもしれないと確保していたが結局その機会は来ず今まで倉庫に眠っていたが、それを使うことになった。
俺も言ったはいいが値段にびびったものの、あの時の悪そうな顔をしているセリアーナの様子から、多分狼狽える俺を見て楽しんでいたんだろうし、これで良かったんだと思う。
この屋敷はセリアーナの部屋に繋がる廊下から室内履きに履き替える様になっている。
ただ、それでも床に座り込んでやるのは少々抵抗あったし、何より硬いからやりたくなかった。
結果、これのお陰で普段は【隠れ家】だけでやっていたストレッチを、ここでも出来るようになったし万々歳だ。
もちろんこれにも蛇の模様は入っている。
「まあ……いいわ。これをリーゼルに届けて頂戴」
そう言い丸めた紙を渡してきた。
封もされているし、何か重要な事かもしれない。
「オレでいいの?」
「ええ。返事をもらって来るのよ」
すぐ返事を用意出来る事なのか……何なんだろう?
◇
「こんにちはー」
「セラか。どうかしたのか?」
「お嬢様から殿下にこれを。返事貰って来いって」
本館のリーゼルの執務室の手前で、警備の兵に用件を伝えた。
流石、現役の王子様で代官様。
こっそりアカメの目で見ているが、あちらこちらに警備の人間がいる。
「わかった。待っていろ」
そう言うと部屋に入って行った。
中にお客さんらしき姿が感じられるんだけど、いいのかな?
「セラ、入れ」
待つ……というほどの時間もかからず、すぐに出てきた。
中に入っていいようだが……。
「いいの?お客さんいるけど」
「構わないらしいぞ?」
構わないのか……。
「セラです」
ノックをし名乗るとすぐに中からドアが開いた。
開けたのは侍女のロゼだ。
彼女に頭を下げ、そのまま中に入ると、まず目に入ったのはリーゼルではなく、2人の男の後ろ姿。
何でこんなドアのすぐ前にいるんだろう?
「やあセラ君、いらっしゃい。セリアからだって?」
彼等の背に遮られ、姿は見えないがリーゼルの声だ。
「あ、はい。これです」
彼等の横を通り抜けるといつもと変わらぬリーゼル。
とりあえず預かって来た封書をカロスに渡した。
部屋の奥に備えてある応接スペースには誰もいない。
後ろの彼等はお客じゃないのかな?
「セリアから何か聞いているかい?」
「返事をもらってくるようにって……」
カロスから受け取った封書の封を解きながら聞いて来た。
内容に関しては何も聞いていないけれど、なんなんだろう?
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・3枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・3枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・8枚