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秋の2月。
山の方はもう薄っすらと雪が見えるが、平地はそれ程でもない。
「ぐぉぉぉ……」
ただし!
上空は寒い!
思わず呻き声をあげてしまう。
来月になればまた秋の雨季で雨がしばらく続くので、それまでに今やっている作業を一段落させようとややハイペースに行っている。
上空で震えていると、ピーっと笛の音が聞こえた。
位置に付いた合図だ。
「ふぬっ!」
手に持つ魔道具に魔力を込めると、そこからレーザーの様な光線がまっすぐ伸びた。
直線照射器という、光線が出る、それだけの魔道具だ。
直線を引くだけと、使い道が限定されている為、数が少なく意外と高価だったりする。
通常は櫓の様な物を組み立てて、その上から照射していくのだが、今回はまだ伐採が済んでいない森の中。
その為俺が上空から高度を維持して、照射を行っている。
それを受けて、何か1メートル程の長さの杭の様な物を200メートル間隔で地面に打ち付け埋め込んでいる。
魔力を通すと僅かにだが発光し、工事の際の目印になる。
それが終わると俺がその真上まで移動し、合図を待つ。
この繰り返しだ。
これをこの冬の間に、森の中にある次の拠点候補地まで伸ばす予定だ。
もちろんこの時期の森は危険で、本来こんな事は無謀なだけだが、下の護衛はアレクとジグハルトのこの街の最強戦力に、今日はこの街出身の冒険者5人組パーティーだ。
後者は毎回入れ替わっている。
まぁ、公共事業みたいなものだしな……。
それプラス、俺が上空から監視もしている。
アカメの目と【妖精の瞳】を通して無駄に強力なジグハルト達がはっきり見える。
アレクも強いはずなんだけれど、どうしても霞んでしまう。
俺が寒いという点を除けば、何の問題も無い。
1の山から下りてくる魔物の緩衝地帯として、1の森は残してあるので、そのすぐ隣だと危険過ぎる為街からおよそ5キロ離れた場所に造ることになっている。
大体今半分。
目的地まで辿り着けば、冒険者にも依頼を出して人海戦術で一気に切り進む。
相変わらずこの世界はパワフルだ。
「ぬ……っ!」
ピーーーっ!と全力で笛を吹く。
俺から吹くのは魔物が接近している合図だ。
ちゃんと笛は届いた様で、一瞬ピカっと光ったかと思うともう魔物は消滅していた。
【竜の肺】を渡してはいるけれど、それ込みでも見事な魔法だ。
魔物は炭になっているのにあれで森には全く燃え移ったりしない。
アレクがやる事が全く無いとぼやいていた。
ただ、工夫にしてみればごつくて盾に棍棒を持った見るからに強そうな大男がいると安心できるんだろう。
彼等も多少は荒事に慣れているとはいえ、魔境の魔物は恐ろしいのか最初は作業を渋ったが、今はもう慣れたものだ。
ほんの一瞬とは言え、今の戦闘でも全く手を止めていない。
コーンコーンと杭を叩く音が途切れていない。
この辺の魔物もそろそろこちらの臭いを覚えたのか、僅かに見える程度の距離に数体いるが、それ以上近づいてこようとしない。
早朝から始めてまだ正午前。
このペースだと、後1本位はいけるかな?
◇
「ただいまー」
皆はこの後冒険者ギルドと職人ギルドにそれぞれ報告へ行くが、まだ早いがその後合流して飲みに行くんだろう。
街に入ったところで俺だけ一足先に屋敷に戻った。
ケープこそ羽織っているが、念の為にと【緋蜂の針】を装備しているから裸足だ。
流石にこの恰好で長時間外に、それも上空にいるのは厳しい季節だ。
そろそろ靴を履くべきだろうか……?
「おかえりなさい。風呂の用意が出来ているわよ」
「ありがとー!」
例によって窓から部屋に入ると、セリアーナからのありがたいお言葉。
中には女性陣3人がいるが、資料らしき物を広げている。
お仕事中らしいし、俺はさっさと風呂に入ろう。
部屋を出て、すぐ向かいにある浴室に入った。
俺は普段は【隠れ家】のを使っているが、人がいる時はこちらを使う事がある。
他にもリーゼル用や客人用が複数と、風呂がたくさんある屋敷だ。
今はもちろん、増築前の状態でも多かった。
この街にいた頃も水にだけは困った事が無かったし、水が豊富な土地なんだろう。
いいことだ!
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・3枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・3枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・8枚