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【浮き玉】の高度を上げ、森の上に姿を出し、街の方角を確認した。
方向音痴というわけでは無いが、深い森の中。
それも戦闘時に上下あれこれ動き回るから、自分がどの方向を向いているのかがすぐわからなくなってしまう。
「ふらーっしゅ!」
傘越しに全力で魔法を撃ちあげた。
信号弾変わりだ。
昼とは言え、これなら気付いてもらえる。
魔法に気付いた様で、耳を澄ませているとピーっと甲高い笛の音が聞こえてきた。
回収の部隊がすぐやって来るだろう。
◇
1の森。
俺が普段狩り、薬草採集をしている街から一番近い森だ。
名前の由来は街から一番近いから。
……そこの存在は孤児院にいた頃から知ってはいたし、そう呼ぶのも知ってはいたが、それが正式名称だとは知らなかった。
名前を付けて区切っているが、大森林に直接つながってはいるものの、1の山が間にある事から分けて呼ばれている。
ちなみに1の山の由来も同じだ。
この森の特徴は、街から近い事。
稀に1の山に縄張りを持つ強力な魔物が下りてくることはあっても、基本的に1の山から追いやられた弱い魔物しかおらず、通過されるだけのことが多い。
ただ、弱いと言ってもそれはあくまで魔境基準であって、実際は充分に強かったりするから質が悪い。
街は変わらず薬草不足だが、他所の街だと薬草が足りなくなりさらに冒険者の都合がつかない時は、薬師が自分で採りに行くことも出来るが、流石にここでは危険過ぎる為それをやる奴はいない。
ポーションの素材は常緑性で季節お構いなしに採れるそうで、秋冬になると魔物が狂暴になる為その時期は冒険者も遠出を避け、1の森で狩りをする事が増えるので頼めるが、遠出するには一番のこの時期はまだそれは難しい。
先日、話を聞いたアレクやジグハルトが自分達が手伝おうかと言って来たが……流石にこのレベルの人達にやらせるのはもったいなさすぎる。
そんなわけで、依然薬草採取は俺が引き受けている。
俺がやるにあたって懸念事項の魔物の処理は、街の兵がやることになった。
冒険者と兵士。
決して揉めるような事では無いが色々住み分けがあるそうだが、俺がそもそも代官側の人間でそれの手伝いって事で、まぁいいかって空気になっている。
このルトルは新領地の領都になることが決まっている。
ただ、今の街のままでは狭すぎるので拡張していくのだが、東側、つまり森の方へと広げていく。
なぜ敢えて危険な方へ?
と思うかもしれないが、街と森との間に騎士団の訓練場を挟む事でそれに対処する計画らしい。
代官屋敷を増改築して領主屋敷にするのだが、ゼルキスのそれとは違い、敷地内に騎士団の訓練所は場所が無く作れない。
代わりに街壁に隣接するように、外に訓練場と兵士の宿舎を建てて、防衛力を高めるそうだ。
今の時点でも街の西側ではあるが外で訓練を行っているし、それを東に移すだけでさほど手間はかかっていない。
「お?」
ボーっと、今度は先程のとは違った低い笛の音が聞こえてきた。
俺も同じ物を預かっているが大型の魔獣の咆哮を真似たもので、弱い魔物避けの効果があるらしい。
それだけなら魔境では気休め程度だが、大量の血と死体の匂いが漂っているから、それと合わさって効果が発揮出来ているんだろう。
同じく俺も吹き返す。
「お、いたぞー!こっちだ!」
その音が聞こえたのか、回収にやって来た兵士達が声を上げ近づいて来た。
数は5人。
この国の部隊の最小構成だ。
魔法1発で1隊要請となっている。
返答は笛の数で確認しているが今の所間違いはない。
「お疲れさまー。今日もよろしくね?」
「特別報酬は出ているからな。気にするな」
わざわざごめんよと思うが、彼等は気軽に返してきた。
特別報酬……魔物の売却金だ。
彼等からしたら、訓練中に要請があれば出向いて、そして街まで【祈り】の援護付きで魔物を引っ張っていくだけの事。
それなりに割のいい仕事だろう。
聖貨は俺が取っているし、ダンジョンと違って外でゲットした分はセリアーナに払わなくていい。
丸々俺のお財布に、だ。
別に払ってもいいんだが、セリアーナ自身が取っておけと言って来た。
まぁ、薬草採集を引き受けた報酬みたいなものだろうか?
「よし。積み込み完了だ。やってくれ!」
「はいよー」
てことで、今日のお仕事は完了だ!
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・20枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・3枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・5枚