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この世界には魔力がある。
まぁ、魔法があるんだからあってもおかしくないんだが、ちゃんと存在が確認されている。
そして、魔力が細分化されたものを魔素といい、それは大気中に漂い、森や山の奥深く、ダンジョン、人口の多い街中等の生物の密集している場所は特に濃いらしい。
多少手間はかかるが利用法も確立されていたりする。
その利用法の一つが、火、水、空調、照明等の住宅でのエネルギー源、ガスや電気みたいな使い方だ。
屋根にソーラーパネルの様な物を付け、そこに導線を繋ぎ内部に張り巡らせ、そしてそれに照明などを接続するのだが、そのシステムが高価で主に貴族を始め富裕層でしか使われていない。
俺のいるこの屋敷は、ゼルキス領領主・ミュラー伯爵家のお屋敷。
領内屈指のお金持ちのお屋敷だ。
そのシステムは当然導入されている。
そして価格以外でも問題がある。
床や壁はいいのだが、天井にも導線を張り巡らすため、そのメンテナンスが大変なのだ。
この世界、クレーン車や工事に使う高所作業車は存在しない。
梯子や脚立を用いた人力で作業を行っている。
危ない。
そして人手もいる。
時間もかかる。
そこで俺だ。
【浮き玉】に乗りふよふよ漂いながら、ちょっとした作業をするだけで大活躍だ。
「君は、ずいぶん馴染んでいるね…」
大活躍のお礼に使用人の控室でお茶をご馳走になっていたところ、エレナがやって来た。
彼女は領地の騎士の娘か何かで、一応貴族だったはず。
基本ここは使用人しか来ない場所だ。
彼女が来るような場所ではない、
別に悪いことをしているわけではないのに、部屋にいる皆は顔が強張っている。
ここは俺が切り出そう。
「何?おやつ?」
「違うわ…君を探していたの。食べ終わったらお嬢様の部屋に来なさい」
はて?何だろうかね?
◇
「ダンジョン?」
セリアーナの部屋へ行くとエレナとアレクも待っていた。
そこで突如ダンジョンについての話を聞かされた。
「そう。西地区の冒険者ギルドにあるわ。知っていたかしら?」
「冒険者ギルドがあるのは知ってたけど、ダンジョンがあるのは知らんかった…」
この街の西地区に冒険者ギルドや武具、道具、といった冒険者、傭兵向けの施設が揃っている。
エレナとアレクの2人は護衛でもあるけれど、冒険者として登録していてダンジョンに行くことがあるとは聞いたが、街中にあるのか…。
「正確にはギルドの地下にあるの。2人が恩恵品をある程度使えるようになったから、使い心地を実戦で試すのにダンジョンに行くのだけれど、お前も行ってみない?冒険者になりたいとか言っていたでしょう?」
このねーちゃん意外と人の話覚えてるな…。
元々デカい街に行って冒険者で生計をってのが当初の案の一つだった。
今のこの生活も悪くないけれど、折角のファンタジーな世界だし興味が無いと言えば嘘になる。
それも、1人で行くんじゃなくて腕の立つパーティーメンバー付き。
これは美味しい。
美味しいけれど…。
「オレ、8歳だけど大丈夫?14歳からとか言ってなかった?」
「あら?よく覚えていたわね。でも大丈夫よ。ダンジョンは領主の物で、ギルドはあくまで管理を代行しているだけなの。もちろん死なれたら困るから、危なそうなら許可は出さないけれど…」
話を区切り俺を見る。
正確には乗っている【浮き玉】を。
「それがあるならそうそう危ない目には遭わないでしょう?2人も試すのは浅瀬で行うし、危険は無いでしょう。いい機会だから行ってきなさい」
「はいよー」
浅瀬って何だろう…?
まだ先の事と思っていて全く調べてなかったんだけど、折角の機会だ。
お言葉に甘えさせてもらおう!