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「ふんふーん……」
ルトルの街の東門。
数キロ先に魔境である大森林があり、そちらに向かう冒険者達や、逆に魔物の襲撃に備え監視を怠らない兵士達による独特の緊張感が漂う場所だ。
俺は今その上空で筆を走らせながら鼻歌を口ずさんでいる。
趣味であるお絵描きをしている……という事になっているが、これでも仕事中だ。
この街の地図は領都には無かったが、流石に代官の下にはそれなりに精度の高い物が置かれていた。
あくまで、それなりに程度だが……。
セリアーナはそれが不満で、マス目を引いた紙に上空から見た街を書き写す様言って来た。
中々に無茶を仰る……。
とは言え、命じられた以上はやらねばという事で、名前は知らないが写生の時に使う板に紐を付けたアレを用意し、更に、アカメの目と【妖精の瞳】も発動しながら、ここ最近地図作りに励んでいる。
三角点とは違うが、街を囲む街壁は内側から見える位置に100メートル毎の印があり、それを基準にしていけばかなり正確な地図を作製できる。
もっとも俺がやるのはスケッチまでで、細部の仕上げは専門家が行う。
おかげで航空写真とまではいかないが、街の様子をかなり正確に描けているはずだ。
1日1枚のペースで終わらせること2週間。
A4サイズ位の紙を4x4で作っているから、全部揃えば随分大きな物になるだろう。
「よっしっ!こんなもんかな」
南西にある代官屋敷の真上から始めて行き、今日手がけたのは東門を含む一角で、これで残りは2枚。
この地図作りももうすぐ完了だ。
◇
夜、セリアーナの寝室で【隠れ家】を発動している。
「……後は北東部の教会のある地区ね」
俺のスケッチを基に仕上げた地図を受け取って来たエレナが、テーブルの上に置いたパネルにピンで貼り付けた。
1枚ずつ貼っていき、16枚で完成だ。
完成したら額に収める事になっている。
他にも2枚ずつ作っていて、1枚はリーゼルへ。
もう1枚はセリアーナの執務室の壁にかけてある。
さて、そのテーブルの地図を見ていたセリアーナは視線を空いた右端に移す。
空いているスペースは2枚分。
そこは教会のある地区で、東門から北に行った場所だ。
「夜に行ってこようか?」
この作成中の地図とセリアーナのスキルを合わせる事で、この街の敵味方の動きがかなり正確に把握できるようになる。
地図を見ながら彼女のスキルの説明をしてもらったが、地形の情報があればあるほど、たとえば建物の何階にいるかなどもわかるそうだ。
チートコードみたいなものなのかな?
その分スキル使用中の彼女の負担は増えるが、自分が動くわけじゃないし、相手を完封できることの方が重要らしい。
それを踏まえると、出来れば正確な物を作りたいが……。
「止めておいた方が良いわね」
止められてしまった。
もちろん今の時点でも、おおざっぱには把握できているらしいが、この街には既にセリアーナに敵意を持っている者が入り込んでいるそうだ。
そして、その連中が集まっているのが街の北東部。
教会を含む、あまり裕福でない者達が集まる地区だ。
しかしその事をセリアーナがわかっているからと言って、まだ何もしていない者を捕らえるわけにもいかない。
偉くなると、自分の事を嫌ったり憎んだりするものも増えていく。
そんな訳で、監視こそ秘かに行わせているが絶賛野放し中だ。
それもあって、孤児院を脱走云々別にしても俺はあまり近づきたくない場所だ。
セリアーナを狙う連中が既に街に入り込んでいるのなら、俺の情報も持っていてもおかしくはない。
わざわざ姿を晒す必要は無いだろう。
「高度を上げて、1枚空けた所からやりましょう。孤児院や治療院と言った教会関連を除けば大きな建物は無いでしょう?」
「そうだね……あまりジロジロ見たわけじゃないけれど、宿が2軒ある位で、オレがいた頃と変わりは無かったかな?」
セリアーナの問いに、記憶をほじくり返しながら答える。
距離はあったが上から見た感じ、新しい施設は追加されていないはずだ。
「巡回の兵を増やしますか?」
「必要ないわ。下手にこちらが動いたらそれを口実に住民の不安を煽る位はしそうだしね。相手が動くまで待つわ」
セリアーナの返答に、それを予想していたのかエレナは何も言わない。
俺もそう思っていた。
教会の評価の低さは予想以上だけれど……。
「ま、あえてこちらから挑発はしないわ。お前もいいわね?」
「はーい」
逃げ足ならともかく、対人戦の自信なんて無いからな!
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・8枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・3枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・5枚