12
12話にして主人公の名前がついに!
「はい。これ」
「何これ?」
目の前に差し出された物を見て、何かはわかっているが思わず聞き返した。
「セラ、お前の仕事着よ。使用人としての仕事はしなくていいけれど、それは着ておきなさい」
「あ、はい」
そう言うしかなく、受け取った服を広げてみた。
地味な黒のワンピースに、飾りっ気の無い白のエプロン。
知ってる。
メイド服だ。
あ、申し遅れました。
赤毛とソバカスがチャームポイントの、いずれは美少女になるかもしれない俺、こと、セラと申します。
◇
セラ。
俺の新しい名前だ。
日本でもあったが、流行りの名前ってやつだ。
物語や劇の登場人物からだったり、あるいは歳の近い領主の子供からだったり、有名な人物にあやかって子供に名前を付けるのは多いらしい。
この名前の由来はセリアーナからだ。
14歳と8歳。
多少歳は離れているが、この街の出身って俺の経歴に説得力を持たせる丁度いい名前だ。
領主である親父さんや警備隊長なんかに顔を合わせたりとあちらこちらに連れまわされ、なんやかんや忙しかったが、おかげで戸籍関連はすっかりきれいになった。
それはいいのだが、まさかメイドさんになるとは思わんかった。
あるんだなぁ…このサイズの制服。
「セラ、出しなさい」
ほんのり黄昏ていると、セリアーナが手を出し聖貨を寄こせと言う。
「うぐぐ…っ」
まぁね?約束は大事だよ。
相手はちゃんと守った。
次は俺が守る番だ。
守る番なんだよ。
それが道理ってもんだ。
わかっている。
ちゃんと服の内ポケットに入れてきた。
わかっているんだ。
「いいからさっさと寄こしなさい」
「ぎゃあっ⁉」
頭ではわかっていても体が聖貨を手放すのを拒否し、固まっていたところ、何故知っているのかわからないが、服に手を突っ込みまさぐり、奪っていった。
「全く…当たりがあるか確かめるわよ」
そう言うなり、エレナとアレクとの3人で、1枚ずつ聖貨を女神像に捧げ始めた。
ここは敷地内にある礼拝所で、女神像が置いてある。
ミュラー家だけでなく、領内の騎士や兵士、果ては貴族も利用する。
領内とはいえ離れた所にいる者たちもそうらしい。
教会とそこまで距離を置きたいのか?と思うがそんなもんらしい。
それはさて置き、今何をしているかというと、この8枚を分け合うことでセリアーナ達3人の所持する聖貨が10枚を超えるらしい。
そしてガチャにチャレンジする。
ちなみに俺は「ガチャ」と呼んでいるが、この世界ではシンプルに「聖貨を使う」と言っている。
俺は参加しないが、4回とも勘で何となくやっていただけだし正式な作法を見れるから見学させてもらっている。
セクハラに遭うとは思わんかったが…。
「予想はしていたけれど…全員外れね。エレナ、貴方から始めなさい」
ちょこちょこ話に出てくる当たり外れ。
これは、1枚でガチャを引けるのが当たりといわれている。
滅多にないそうだが、引く前に1枚ずつ試すのがお約束らしい。
3人とも外れだったが、初っ端で当たりを引けた俺は運がいいのかな?
さて、一通り試したところでいよいよ引くようだ。
エレナが女神像の前に片膝を立て跪き、両手に聖貨を乗せ、顔の前に掲げている。
あれが正式ポーズなんだろうか?
「あ…、ちょっと」
気になることがありセリアーナに声をかける。
あれ危なくないか?
「何?集中の邪魔をしてはダメよ?」
怒られた。
「いや、あれ危なくないの?」
【浮き玉】も【魔鋼】も顔の高さからズドンと来た。
もちろん重い物が来るとは限らないが、あの体勢だととっさに逃げる事が出来ないし怪我をしかねない。
「…?よくわからないけど、あれで大丈夫よ」
大丈夫なのか…?
不安に思っているとエレナが淡く光を放ち始めた。