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山を越えてから約20日。
3つの領地を通過しゼルキス領に入り、そして今日ようやく領都に辿り着いた。
その3つの領地はゼルキス領と同じく大森林を切り開いた領地で、とにかく領土が広い。
更に、広さもだがほとんど平地の山向こうと違い、起伏はあるわ森や丘はあるわで、進路を真っ直ぐとることが難しく、戦闘は一度しかなかったのに、日数は倍かかった。
行きはそれほど気にならなかったが、同じ国なのに随分違う。
「1年も離れていると、随分懐かしく感じるわね」
セリアーナは馬車の中から領都を眺めている。
領都から出ること自体滅多に無いそうだし、感慨深いんだろう。
俺はまだここには数ヶ月しか住んでいないし、前世の様に目を離していたら、見た事無いビルがにょきにょき建っている、といった事も無いので、申し訳ないがその感覚は分かち合えないな……。
「人多いね。集めたのかな?」
貴族街に向かうまでの道に、住民が勢揃いとまではいわないが、結構な数が道沿いに並んでいる。
ちょっとしたパレードだ。
「そんなことはしないわ。王都の騎士や武装馬車が珍しいからでしょう?王都からここまで出てくることは滅多に無いもの」
窓から外に向かい手を振りながら説明してくる。
「ほうほう」
大きいイベントなんてそんなに無い世界だ。
確かに、デカく派手な馬車が数台に、見たことの無い恰好の騎士の集団ともなれば、ついつい見たくなってもおかしくないか。
いつの間にかエレナが、セリアーナとは反対の窓から手を振っている。
住民サービスみたいなものなのかな?
ロイヤルな感じだ……。
結局見物人は貴族街入口まで続き、そのまま見送られるように大通りを抜け貴族街に入り、領主の屋敷へと向かった。
◇
「おかえりなさいませ」
門から屋敷に入ると玄関前で第2夫人のフローラさんを中心に勢揃いし、出迎えられた。
普段だとここまでは無いんだけれど、リーゼルまでいるからね……。
最敬礼だ。
リーゼル達はルトルで新領地の開拓の指揮を執るのだが、彼の母親である第一王妃の実家から、開拓の人員が派遣される。
その到着を待ってから、ルトルに移るそうだ。
到着予定は2週間ほど後で、それまではこの屋敷に滞在する事になっている。
第4とは言え、本物の王子様だし緊張するだろう。
さて、それはさておきだ。
この迎えられる側に俺がいる事がひどく場違いな気がする。
リーゼルはもちろん、伯爵夫妻の従者も皆貴族だ。
何となく肩身が狭い気がするし、さっさと【隠れ家】の荷物を置いて退散したい。
「セラ、お前は後ろを手伝いなさい」
挨拶を終えたところで、セリアーナから手にしていた扇を渡された。
後ろを見ると屋敷の使用人達が荷物を下ろしている。
行きと違い、今回は俺達だけじゃないから荷物は普通に積み込んでいる。
もちろん【隠れ家】の中にも大量に詰め込んであるが……。
なにはともあれ、この一行から離れるいい口実になる。
ありがたい。
【浮き玉】に乗ったままだしあまり重いものは持てないが、小物なら窓から運べるから役に立つかな?
「手伝いまーす。先にお嬢様の部屋の窓開けてくるね」
皆が屋敷の中に入ったのを見届け、後ろで作業をしている使用人達に挨拶をする。
何となく顔は覚えているが、数人を除いて名前までは自信が無い。
どういう風に接していたっけ……思い出せない。
学生時代、夏休み明けとかに友達との距離感を忘れていた感じに近いな。
王都のお土産を用意してあるし、それを渡す際にでも名前をそれとなく聞き出そう。
「ああ。重たい物は私達が引き受けるから、小さい物を頼むよ。部屋は覚えているかい?2階の一番左奥だよ」
「はーい」
俺も屋敷の中に入り、2階に上がっていく。
いつも窓から出入りしていたから、中から行くのは新鮮な気がするな。
セリアーナ達の姿が見えないが、食堂にでも行っているのかな?
まぁ、偉い人の姿が無いのは気楽に出来るからいい事だ。
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・1枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・29枚
エレナ・【】・【緑の牙】・2枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・5枚