127
「そろそろ頃合いね。セラ、【隠れ家】を出して頂戴」
【範囲識別】を発動し、周囲を探っていたセリアーナが指示を出す。
王都を出て30分程ガタゴトと馬車に揺られていたのだが、王家御用達の武装馬車とは言え、やはり快適とまでは言えない。
まぁ、俺は浮いているから問題無いんだが……。
「アレク、私達は「奥」へ行きます」
エレナが後ろを向き小窓を開け、御者を務めるアレクに伝えた。
「奥」とは【隠れ家】の隠語だ。
シンプルでわかりやすい。
「ああ、わかった。何かあれば伝えるが、中からも見ておいてくれよ」
「ええ。貴方もお願いしますね」
伝え終えたエレナが向き直る。
しかしアレクはずっと御者台か。
あそこに座った事があるけれど、硬いんだよな……。
クッションでも渡そうかね。
「じゃ、入るよ」
【隠れ家】を発動し、2人も一緒に入る。
これで、馬車の中に誰も居なくなった。
これが普通の馬車であったなら、周りにいる恐らく相当強いであろう護衛達が、馬車の中から俺達が消えてしまった事に気づくはずだ。
ところが、この武装馬車と呼ばれる馬車だと違う。
武装などと呼ばれているが武器が付いているわけでは無く、特殊な材質を用いて気配や魔力を遮断している。
そうして、中の様子がわからない様にして今回の様に要人の護送に使われる。
実際アカメや【妖精の瞳】で試してみたが、外の様子はわからなかった。
そんな訳で気兼ねなく【隠れ家】を使える。
「あ、ちゃんと見れるね」
リビングのモニターを点けると、馬車の外の様子も確認できた。
この馬車を先頭に、伯爵夫妻にジグハルト達の乗る馬車、リーゼル達の馬車に、最後尾は荷物を積んだ通常の馬車。
そして馬車の周りに護衛の騎士達がいて、全員合わせて長さ50メートル程の集団になっている。
この分なら移動中は【隠れ家】に入っていたままで大丈夫だ。
「結構。他の者達には悪いけれど、私達はこのまま中でくつろぎましょう」
モニターに目をやり、軽く笑みを浮かべながらいつもの席へ向かうセリアーナ。
あの顔は悪いとは微塵にも思っていないな……!
◇
昼食と1度小休憩を行い、14時を少し回った頃に、一行はエルスト領都の領主の屋敷へと辿り着いた。
ここで2泊し、セリアーナを含むお偉いさんは領主のハーレン男爵と食事や会談を行うことになっている。
ここだけじゃ無く、これから通過する領地では全部領主の屋敷で2泊する。
それをパスすることが出来れば大分短縮できるが、王都からゼルキス、果ては新領地への最短ルート上にあるだけに、今後の関係を考えるとそうもいかないんだろう。
セリアーナは、他所の程度を調べてくると嘯いていたが、面倒臭そうではあった。
お貴族様も大変だ。
「お前、こっちでいいのか?」
肩に俺を乗せたアレクが、宿泊先に向かいながら尋ねてきた。
「お嬢様とは部屋が別々になるし、なんか使用人同士で一纏めになるらしいからね。めんどくさい」
何よりアイテムの使用許可が出ないだろう。
知らない場所で【浮き玉】無しは、ちときつい。
戦闘向きじゃ無いし、街中なら問題無いんだろうが、仮にも領主の屋敷だからな……今後の付き合いもあるし、俺がごねるわけにもいかない。
「アレクこそ良かったの?」
エレナと伯爵夫妻やリーゼルの従者は貴族で、ジグハルト達は賓客扱いで屋敷に部屋が用意されている。
一方アレクは個室でこそあるが、他の騎士達と同じく離れとちょっと差がある。
「ふっ。まあ俺もまだまだあの人達に比べたら格が足りないからな。いずれは、な」
あまり気にしていない様だ。
「明日はお前はどうするんだ?」
ふと思いついたようにこちらを向いてくる。
「明日?」
「ああ。お嬢様達は街を案内されるだろうからな。護衛は男爵がここの兵を付けるだろうし、俺は休ませてもらうつもりだ」
ちょっと見てみたくはあるが……。
「オレも部屋にいようかな。疲れそうだ」
ぞろぞろ引き連れて、店の者に整列で迎えられる姿を想像してしまった。
「違いないな」
アレクも同じことを想像したのかもしれない。
笑って同意した。
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・1枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・29枚
エレナ・【】・【緑の牙】・2枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・5枚