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「お帰りなさ……どうしたんです?」
窓から入って来たセリアーナを迎えようとしたエレナだが、抱えられている俺を見て不思議そうにしている。
きっと強張った顔をしているはずだ。
大分高い所を飛んでいたから、俺の悲鳴はここまで届かなかったらしい。
「体が冷えたんじゃないかしら?上はずいぶん寒かったから」
「代わりましょう。温めます」
エレナが適当に答えるセリアーナから俺を受け取り、魔法で温めてくれる。
これに送風を合わせたのが普段ドライヤーみたいに使っている魔法になるのか……。
別に冷えたからあんな顔していた訳じゃ無いけれど、温かいからいいか。
「それで、どうでしたか?途中で見えなくなりましたが、王都を一回りしたのでしょう?」
「地図ではなく自分の目で見る事が出来たのは悪くなかったわ。これで私の【範囲識別】もより正確に機能するはずよ」
なるほど……一応考えがあったのか。
ただのスピード狂じゃ無かったんだな。
「今後も使われますか?」
「それは……無いわね。あまりにも無防備すぎるわ。セラだけじゃ私を守れないでしょう?」
「そうですね。お嬢様の加護があるとはいえ、それを隙と見るものがいないとも限りません。もうやめた方が良いでしょうね」
良かった……もうやらないらしい。
「~~~ぁふっ……」
ホッとしたのと温まったのとで眠くなってきた。
もういい時間だし、そろそろ寝たい。
「もう遅いわね。寝ていいわ。私はまだやる事が有るから【隠れ家】を使わせてもらうわよ?」
「はーい」
なんか今日は色々あった上に最後の最後で疲れた。
寝よう!
◇
王城内にある騎士団訓練場。
以前【緋蜂の針】の検証に来た時はもう少し時間が遅かったからか人の姿もあったが、今は朝の10時ちょっと過ぎ。
まだ朝の任務が終わっていないからか、俺達を除き人の姿は無い。
訓練場入り口には兵士が立っているがそれだけだ。
ちなみに、今日の本命であるジグハルト、フィオーラの2人は、今日は俺の護衛兼魔法指導って名目で同行している。
その人気のない訓練場に、前座のアレクの雄叫びが響いている。
【猛き角笛】は装備した方の手を口元にやって大声を出すことで、声の届く味方を対象に発動するらしい。
……これは俺が使う事は出来ないな。
出来るだけ気付かれる事無く、コソコソするスタイルの俺とは相性が悪すぎる。
いや、でも後方に陣取って空中から「突撃ーー‼」とかはやってみたい……。
そんなことを考えつつしばらく眺めていると、検証を終えたのかアレクが戻って来た。
「もういいの?」
「ああ。とりあえず発動の仕方はわかった。後はゼルキスに戻る前にダンジョンで何度か試しておくさ」
まぁ、敵も何もいない場所では手ごたえを感じにくいか。
「ふむふむ。んじゃ、次はこっちだね。ジグさんからどうぞ」
首にかけていた【竜の肺】をジグハルトに渡した。
「ああ!使わせてもらうぞ」
受け取り首にかけるジグハルト。
声が弾んでいるように感じるのは気のせいじゃなさそうだ。
【竜の肺】は魔法に関係するものらしいが、未だ魔法を使えない俺だと何かあったら対処できないから、まだ発動していない。
果たしてどんな風になるんだろうか?
フッっと一息吐いて、発動したのがわかる。
それはもう一目で。
「わぉ……」
横からだが、口元に赤い模様の様な物が浮かび上がっているのが見える。
首にもある事から、恐らく【竜の肺】を起点に胸元から来ているんだろう。
「ジグさん、こっち向いて」
彼の立ち位置だと側面しか見えないので、正面を向いてもらったのだが……禍々しい。
胸元から炎が這いあがっている様だ。
「なるほどね……」
こちらを向いたジグハルトを見たフィオーラがそう呟く。
あの体に直接魔法陣を刻み込むって手法は、この姿から着想を得たんだろう。
何となく似ている。
「ジグ、どう?何か変わりはあって?」
自分では見えないからだろうか、俺達の反応に怪訝な顔をしているジグハルトに、鏡を見せながらフィオーラが訊ねる。
「……いや、何も無いな。見た目だけか?」
「どうかしらね?試したらわかるんじゃない?」
「そうだな。お前達、少し離れていろ」
後ろに下がるよう手で示した。
魔法を使うっぽい!
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・0枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・29枚
エレナ・【】・【緑の牙】・2枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・5枚