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「っ!?」
覗き穴を覗き込んで間もなく、セリアーナが小さく息を呑んだかと思うと、ドアから顔ごと目を背けた。
きっと眩しかったんだろうなぁ……。
「射ってた?」
「ええ」
目をパチパチと瞬かせるセリアーナに、外の様子はどうなっているかを訊ねると、短い答えが返ってきた。
見ているかはともかく、人目があるにもかかわらず倉庫内で【隠れ家】に避難したのは、倉庫に残っていた【ダンレムの糸】を持つ男の一発を回避するためだった。
あの男が弓を構えた時、てっきり外の兵たちを狙うと思っていたんだよな。
倉庫を包囲する兵の指揮を執っているオーギュストに加えて、外にはリーゼルまでいたんだ。
その2人のどちらかに矢を当てることが出来たら、この状況を脱することが出来る可能性が高まったと思うんだが、しっかりセリアーナを狙ってきた。
今更だが、アレはセリアーナを狙ったんだよな?
彼女の不規則な回避軌道をしっかり追って来ていたし、多分間違いないとは思うんだが……。
ともあれ、上手く物陰に潜んで姿を隠すことで、俺たちが【隠れ家】へ避難する余裕と、ついでに狙いを固定させることに成功した。
しかし……。
「……外は大丈夫かな?」
倉庫の横側にぶっ放されなかったのは良かったし、当然俺たちに被害が出ないのも良かったんだが、入口方向にドカンとやっちゃってたよな。
俺が持っている物と威力に差があるようには見えなかったし、倉庫の壁を壊したくらいじゃ大して威力が削がれはしないだろう。
人や停泊している船に当たりでもしたら、大事件じゃないかな……?
【浮き玉】の操作はセリアーナに任せてはいたが、港の被害状況がどれほどなのか、少々不安になってきた。
「問題無いわ。倉庫周辺から海まで、射線上に人も船も重ならない位置に降りたのよ? 石畳が壊れたりはしたでしょうけれど、それ以外に大した被害はないはずよ」
外の様子を探っているのか目を閉じながらではあるが、セリアーナは俺の不安をキッパリと否定した。
アレだけでたらめに動き回りながら、そんなことに気を遣っていたのか……。
大したもんだ。
「そか……そりゃ良かったよ」
「ええ。……問題無いわね。用意して頂戴」
外の様子を探るために目を閉じて集中していたが、どうやら大丈夫らしい。
目を開けると、外に出る用意をしろと命じてきた。
「はいはい……よいしょっ!」
俺は軽く気合い入れると、再度【祈り】と【風の衣】を発動し直した。
また次の一発まで時間は空くだろうし、もう外に脅威は無いだろうが……油断は禁物だもんな。
「よしっ。いいよ」
「結構」
セリアーナはそう呟くと、ドアに手をかけた。
◇
「ぉぉぅ……」
【隠れ家】から倉庫に戻ってきた俺は、その惨状に驚いて、ついつい呻き声をあげてしまった。
賊の放った矢は、待機所にいた時と同様に真っ直ぐ地面と平行に……ではなくて、どうやら斜め上に向けて放ったようだった。
倉庫の壁面ではなくて、屋根が何割か消し飛んでしまっている。
ウチの兵が空けた壁以外の床面や壁面は無事だが、それだけに土砂や埃が外に流れていかずに、倉庫内に留まっていて、ハッキリ言って肉眼ではほとんど視界が確保出来ないでいる。
もうこうなったら魔法で吹き飛ばすくらいしかないんじゃないかな?
「私たちがいると邪魔かもしれないわね。もうやることはないでしょうし……離れるわよ」
「あれ? 倒しちゃわないの?」
「お前の足がまともなら任せたけれど……無理をする必要は無いでしょう」
やれるかどうかというなら、左足でも普段の動きを再現するのは可能だが、セリアーナが言うように無理をする必要は無いか。
もう、賊側もこの状況をひっくり返すようなものは残していないだろうし、後は皆に任せるか。
「それもそっか……。それじゃー……」
とりあえず、この倉庫の状況をどうにかした方がいいよな?
俺たちがいるから、外から迂闊に魔法を撃ちこんだりは出来ないだろうし、一先ず離れるということを伝えよう。
埃を吸ってむせないように、口元を袖で覆ってから息を吸って、前を見た。
「団長ーオレたちはこのまま外に離脱するから、やっちゃっていーよー!」
よし……これで後は仕上げを見守るだけ……と、一息ついたのだが。
「セリア様っ!」
【ダンレムの糸】を所持していた男が、妙な構えをしていることに気付いた。
セラ・加護・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】【風の衣】
恩恵品・【浮き玉】+1【影の剣】+1【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】【琥珀の盾】【紫の羽】【赤の剣】【猿の腕】・3枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・0枚
エレナ・【】・【緑の牙】【琥珀の剣】・4枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・10枚




