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「よく来たわね」
冬の1月の初週。
王都生活もあと1月ちょっとというそんな時に、ジグハルトからセリアーナに面会の申し出があった。
用件は聖像の使用願いだ。
10枚揃ってから何か月も経っているのに、あのおっさんまだガチャを回してなかったらしい。
「……どうしたのその服?」
フィオーラを伴いやって来たのだが、服装が……。
以前やって来た時は、所謂礼装だったが、今回は儀礼用の恰好だ。
ジャラジャラしている。
フィオーラはフィオーラで派手といえばそうなんだが、こっちはいつも通りだ。
「当然だろう?」
……何が?
そう思いフィオーラに目をやると、ため息交じりに説明を始めた。
「この人、どうしてもこの恰好にするんだって聞かなかったのよ。今まで間が空いたのもそれを仕立てていたからだし……ごめんなさいね?」
「当然だ。聖貨を使う神聖な儀式には、それに相応しい服装で臨まなければならない。わかるだろう?」
「わかんねーよ?」
拗らせちゃったのかな?
「……まあいいわ。セラ、聖像を持って来て頂戴」
セリアーナも若干引いているようだ。
「はーい」
寝室に向かい、そこから【隠れ家】に入り、中に飾ってある聖像を持ち出す。
用件はわかっているんだし、出しておけばいいのにと思うが、わざわざ持ってくるという動作を挟む方が、有難味が増すらしい。
アホなことを……と思っていたが、ジグハルトを見ると満更でもなさそうだし、これでよかったんだろう。
「では、始める」
そう言うと、机の上に置いた聖像に向かい、跪くジグハルト。
聖貨を両手で握りしめ何やら呟きながら祈りを捧げている。
アレクは何か通じるものがあるのか、真剣な顔でジグハルトを見つめ、他3人はやや引いている。
俺……この後やろうと思ってたんだけど、どうしよう。
「お?」
祈りを終えたのかいよいよ捧げるようだ。
頭を下げたまま両手を聖像に向けて伸ばした。
……すっごい真剣だ。
光りに包まれ手から聖貨が消えた。
きっと頭の中でドラムロールが鳴り響いているんだろうが……長い。
「んああああっ⁉」
1分程捧げた体勢で固まっていたと思ったら、突如悲鳴なのか何なのかわからないが、叫び声を上げた。
まぁ……外れだったんだろう。
がっくり項垂れているし。
そのまま見つめていると、項垂れるジグハルトの頭上にロープの様な物が現れ、そして頭の上に落ちた。
「何なの?」
素材なんだろうけど、ロープ?
「魔糸ね。布に決まった模様を刺繍することで効果を持たすことが出来るわ」
まだ動かないジグハルトの代わりに、彼の頭の上から取り上げたフィオーラが説明した。
「ゼルキスの私の部屋のカーテンを覚えているかしら?あれは魔糸で刺繍し耐火の効果を持たせてあるわ」
次いでセリアーナも。
「へー」
領都の彼女の部屋を思い出すと、カーテン一面に刺繍がされていた。
そういえばこの部屋のカーテンには裾に植物が刺繍されているだけで、そのようなものは無い。
只のデザインなのかと思っていたが、意味があったのか。
それはそれとしてだ。
「ジグさん、大丈夫?」
微動だにしない。
まぁ、確かこれが初めてだったんだろうし、あんなに気合入れていたのにこれじゃあねぇ……。
「いつまでも項垂れていないで立ちなさい」
呼びかけても反応なかったが、業を煮やしたのかフィオーラが襟を引っ張り立ち上がらせた。
……強い。
「セラ、お前もやるんでしょう?やってしまいなさい」
「うん」
しかし、アレの後か……何かやり辛いな。
やるけども。
「むむむむむ……」
いつも気合だけなら充分な自信があるが作法は無視していたから、今回はジグハルトを倣って厳かにやってみた。
頭を下げているから見えはしないが、手から聖貨が消えた事がわかる。
そして脳内に鳴り響くドラムロール。
さあ!
今度こそ飛び道具!
俺に遠距離攻撃手段を!
「ふんっ!」
気合を込めストップさせ、頭に浮かぶ言葉に集中する。
【猛き角笛】
……お……音波兵器とか?
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】・9枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・30枚
エレナ・【】・【緑の牙】・2枚
アレク・【】・【赤の盾】・5枚