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「それでは、当商会を今後ともよろしくお願いいたします」
頭を下げそう言い、なんとか商会の会長は部屋を出て行った。
美辞麗句というか、仰々しい言葉を連ねていたから最初に聞いた名前が頭から抜けてしまったよ。
外を見るともう日暮れ。
今日もセリアーナが学院から帰って来てから、祝いの言葉を述べに来る客が後を絶たず、今のでようやくラストだ。
「お客さん、多かったね」
「そうね。でも今日でめぼしいのは終わりよ。明日からは予定も入っていないし、いつも通りになるはずだわ」
「そか……そりゃ良かった」
元々セリアーナは婚約者候補だったし、同い年同士で丁度王都の学院にいるし、タイミングとしては一番いい。
懇意にしていた者達からしてみれば予測出来たことで、彼らはすぐに動いた。
そして、動けなかった者達がなんとかお近づきに、と殺到した。
この国で王家支援の新領地開拓は数十年ぶりらしいし、さもありなんといったところだろう。
しかし、間に親父さんやじーさんが入り調整していたとはいえ多かった。
どういった基準なのかはわからないが、大分断ったとも言っていた。
それでもこの数……影響の大きさが窺い知れるってもんだ。
「お前も大分貰ったわね」
「そうだね……どうしようか……コレ」
そう。
セリアーナは誕生日でもあったわけで、挨拶ついでに色々持って来ていたのだが、中には何故か俺にも持って来た者達がいた。
確かに誕生日は近いが、俺の誕生日なんて公表していないからこれは全く無関係の物だ。
「エレナやアレクよりも、後ろに私以外いないお前の方が近づきやすいと考えたのかもしれないわね。でも、何を渡せばいいのかわからなかったようね……随分バラついているわ」
貰った物は、絵、宝石、装飾品に剣。
変わったところではデカい、というよりも長い蛇のヌイグルミがある。
「絵はミラね。多分ルード王国の件を聞きつけたんでしょう。宝石なんかは【影の剣】や【妖精の瞳】を見てかしら?【緋蜂の針】も考えられるわね。剣は……冒険者だからかしら?」
セリアーナはそう言い、エレナの方を見る。
「その鞘の装飾は王都で有名な工房の品ですね。実戦向きではありませんが、観賞用としては人気があるそうです」
それを受け答えるエレナ。
黒に金の唐草模様の鞘。
確かにちょっとかっこいいけれど、実戦向きじゃ無いのか。
「抜いてごらん」
「ぉぉ……」
言われた通りに鞘から抜こうと手にしてみたが……これは駄目だな。
俺が片手で持てるほど軽い。
更に鞘から抜いてみると、よく磨かれた剣身に種類はわからないが花の彫刻がびっしりと刻まれている。
綺麗といえば綺麗だけれど、確かにこれは使えそうにない。
「お前の力でも折れそうね……。何か気に入った物はあった?」
横から剣を見ていたセリアーナが聞いてくる。
気に入った物か……。
「コレ?枕に丁度いいかも」
選んだのは蛇のヌイグルミ。
大体1.5メートル位で、中身は何かわからないが、程よく柔らかい。
前世でも使った事は無いが、これなら抱き枕にも丁度良さそうだ。
「そう。絵はいいの?集めていなかった?」
実は記念祭以来、大銀貨1枚未満の小物だが絵を集めている。
題材はミラの他に竜や物語など様々だが、伝統を少し外したものが多い。
もしかしたら将来ドカンと跳ね上がるかもしれないが、なにもそれを期待しての事じゃない。
俺の知らない世界を描いているのが面白い。
純粋な好奇心だ。
「まぁ、でもこれはねぇ……」
「ああ、そうね……」
返り血で赤く染まった白いドレスを着て、切断した頭部を掲げ、足元にはたくさんの死体が転がっている。
そして舞台は、戦場ではなく何かのパーティー会場。
屍山血河ってやつだ。
なんにしても、アバンギャルドすぎやしないか?
「何を考えてそれを贈ろうと思ったのかしらね……」
本当だよ。
「冒険者の中には凄惨な題材を好む者もいると聞きますし、セラが少し変わった絵を集めているのを知ったんじゃないでしょうか?」
てっきり、お前をこうするぞ的なものかと思ったが、一応俺に合わせようとしてくれたのか。
まぁ、でも……。
「これは無いね!」
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】・15枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・27枚
エレナ・【】・【緑の牙】・2枚
アレク・【】・【赤の盾】・4枚