09
「アレク、エレナ、貴方達気づいているかしら?」
唐突な言葉にそばに控えている二人は顔を見合わせた。
「…何をですか?」
「一昨日の夜中から、庭をうろついている人間がいるの」
窓に近寄り庭を見下ろしながらそう告げた。
『⁉』
彼らはあくまで護衛で、屋敷の警備は請け負っていない。
ただ、それでも兵士たちと連絡を取り合い屋敷への客人はもちろん、領都内の不審者の情報は得ている。
侵入は一昨日といった。
にもかかわらず、何の報告も上がっていない。
庭には犬も放っているのに何も騒ぎは起きていない。
侵入だけして何もしないのは割に合わないし、考えにくいのだが…
もし、暗殺や誘拐などを企んでいるのなら非常に危険な状況だ。
だが、どうもその様子は無さそうだ。
「そいつは魔物では無く人間なんですか?」
極稀に空を飛ぶ魔物が街中に侵入してくることがある。
この街では無いが、ダンジョンから出てきた魔物が潜んでいる場合もあるが…
「ええ、人間ね。さ、行くわよ」
そう断言し外へ向かうべく部屋を出て行き、2人もその後を付いていった。
◇
『そこに潜んでいるのはわかっているの。さっさと出てきなさい』
「ぬおおぉぉお⁉」
昨日、一昨日とで大体の配置や警備状態を把握し、その情報を地図に書いていた時、唐突に【隠れ家】に響いた声に思わず叫び声を上げた。
「何だ何だ何だ⁉」
当たり前だが、【隠れ家】内を見回すが誰もいない。
外の様子を見ようと、モニターのスイッチを入れると、3人の姿が見えた。
1人は20代半ばくらいの背が高くごつい黒髪の男性。
武装しているわけでもないのに、冒険者は何人か見てきたが彼らよりもずっと強そうだ。
聖貨を回収する隊の兵に雰囲気が近い気がする。
彼らは強かった…。
まぁ、俺は素人で強さとかあんまわかんないけども…。
2人目は20前後くらいの長身細身で茶髪の女性。
この人は何だろう?剣を下げてるし、戦えるのかもしれないが…よくわからん。
背筋がピンと伸び、少なくとも弱そうには見えない。
3人目は、15~6歳くらいだろうか?
先の2人を従え、高そうな服を着た、金髪で偉そうな雰囲気の少女。
確かこの家の娘だったと思う。
馬車から降りる姿を昨日見た。
てことは領主の娘か…そりゃ偉いわ。
ともあれ、人が来ないであろう屋敷の外れに【隠れ家】で潜んでいるんだが、わざわざここまでやって来ている。
『一昨日の夜から庭をうろついているのはわかっているわ』
こりゃ思いっきりバレてるね…。
それにしてもこの音声はどういう仕組みなんだろうか?
モニターを通して外の様子を窺っている時は音声ももちろん聞こえていたし、スイッチを切っていたら音声は聞こえていなかった。
インターフォンみたいなものなんだろうか。
扉の前で呼びかけたら聞こえてくるとか…?
◇
『お前、いい加減諦めて出てきなさい』
さて、そんなわけで今日だ。
昨日呼びかけをした後、この娘はさっさと屋敷に戻っていったが2人が交互にずっと見張りを続けていた。
大分寒くなってきているのに一晩中だ。
おかげで逃げ損ねた。
途中眠くなって寝てたが、起きて朝食中に確認したら、見張っていたからきっとそうだと思う。
今日も連れてきているのは2人だけで、兵隊は連れてきていない。
まぁ、その2人だけで数を補えるくらいの腕だって可能性もあるけど…むしろそっちか…?
ちょっと不安になってきたけれど、このまま粘っても仕方が無い。
【影の剣】を指にはめ、【浮き玉】に座り準備は出来た。
一応警戒は怠らないけれど、ここはVIPに繋がりを持てたって事にして、前向きに考えよう。
「よしっ!行くぞ!」
フンっと気合を入れ、部屋から踏み出した。