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今日はセリアーナの誕生日パーティー兼婚約発表の日だ。
本人達は会場である城に朝から向かい、そして、そちらに参加する事の出来ない者達が屋敷をひっきりなしに訪れている。
そちらは屋敷に残っているじーさんやオリアナさんが対処しているが、忙しそうだ。
ミュラー家にとっては大きな意味を持つ日になるだろうし、仕方ないのだろう。
ちなみに、今日の主役であるセリアーナの側近の俺とアレクはお留守番中だ。
「飽きない?」
「ん?ああ、悪いな」
【隠れ家】から持って来たお茶をアレクに渡す。
無いとは思うが、もし俺達が対応する必要のある客が来た時に備えて、【隠れ家】には入らずセリアーナの部屋の応接スペースにいる。
そこで俺は読書を、アレクは書き物をしているのだが……。
「見るか?」
「うん」
アレクが朝から作成しているのは、先日まで行っていた任務の資料だ。
ギルドには既に提出したらしいが、それより更に詳しく、かつ独自の注釈を入れたものを作っている。
魔物の種類、生息地、痕跡の見つけ方に個人・集団での戦い方。
絵こそ無いが、これを頭に入れておけば対処は難しくない。
「随分詳しく書くんだね」
「まあな。しばらくは俺が担当することになるだろうからな。慣れるのには悪くないさ」
「おー……さすが隊長サマ」
「ふっ……」
俺の揶揄いを笑って躱し、作業に戻るアレク。
そう、アレクは新領地の騎士団で隊長に就くことが決まっている。
団長はリーゼルが王都から引っ張って来るそうだが、冒険者や傭兵を束ねる隊の隊長がアレクらしい。
エレナはセリアーナの親衛隊の隊長で、俺はセリアーナの直属だがその時その時であちこちに出向という形になるとか。
成人したらまた変わるらしいが、今の浮いた立場からは大分変化する。
昨日、じーさんと当主である親父さん、そしてアイゼンのいる場に呼び出され、その事を言い渡された。
孤児のガキンチョが出世したものだ。
そうだ、アイゼンと言えば。
「ねえ」
「ん?」
「ちょっと聞きたいんだけどさ、お嬢様とアイゼン様って仲が悪いの?」
昨日も本人は隠していたつもりだろうが睨んでいたし、前から気になってはいたけれど中々タイミングが無くて聞けなかったが、今なら丁度いい。
「あー……仲が悪いってわけじゃないんだがな。まあ、嫉妬だろうな」
「嫉妬?」
開拓したいんだろうか?
フロンティアスピリッツ的な……。
「新領地の開拓ってのは簡単じゃないからな。「よほど優秀」かいっそ「無能」かなら若様がその役目に付いていたんだろうが……無能じゃないし悪くはないんだろうが、開拓を仕切るには少し物足りないな。逆にお嬢様はその「よほど優秀」な方だ」
「ほうほう」
まぁ、頭いいし、威厳あるよな。
「問題は、それをお嬢様が7歳の時に決められたって事だ。子供ながらに若様も自分が格付けで下にされたってのを何となく察していたんだろう」
「あらら……」
「俺が雇われたのはその1年後だが、よく睨まれたもんだ。今は大分ましになったし成長したって事だろうな」
「敵対したりとかそういうことは無いのかな?」
お家騒動って言うとちょっと違うけれど、開拓はゼルキスからの支援が前提となるし、安定してからでもお隣さんだ。
やろうと思えば封鎖もできるだろう。
「開拓自体王家の肝いりで行うわけだし、それは心配のし過ぎだな。ただ、来年からの王都での1年でそういった事を煽って来るような奴がいないとも限らないからな。若様も窮屈な生活をすることになるだろうな……」
お付きの人が監視役も兼ねるのかな?
そりゃ大変だ。
「その辺の事は俺達が気にする事じゃないさ。それに若様が次にゼルキスに戻ってくる頃には俺達はルトルに移動しているだろうしな」
「そか。ならいいや」
盤石かはわからないが、とりあえず後ろから攻撃されたりは無いってのは確かみたいだ。
折角出世しそうなのに、ひっくり返されたらたまらんからな!
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】・14枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・27枚
エレナ・【】・【緑の牙】・2枚
アレク・【】・【赤の盾】・4枚